「・・・・千麻ちゃん・・・満足させるの一苦労なんでしょ?」
言われた言葉に一瞬思考。
記憶を巡らせ捉えた言葉に軽く噴いた。
当然気づかれない程度に。
ああ、あの言葉がそんなに引っ掛かっていたんですね。
「あんな一言言われたらさすがに恐くて簡単には挑めない」
「自信が無いと・・・」
「違う・・・、比べた事はないけど俺多分上手いし。・・・多分満足させられると思う」
「なら・・・、どうぞ?」
自信があるなら挑んでは?
そう挑発的に言葉を返せば再度の苦悶。
表情は見えないけれどかなり動揺しているのでしょうね。
しばらく考え込んでの無言なのか不動で私を抱きしめていた彼が、弾かれたように私の体からどくとすぐ横に座りこんで余所を向く。
深く息を吐いたその表情は見せず、それでも予想して体を起こすと自分もその場に座って彼の背中を見つめた。
不思議だ。
こうやって後ろ姿は何度だって見ているのに。
今やわけありでも夫婦として彼と生活を共にしている。
今まで見せていなかった私生活をお互いに晒して。
ふわりふわり風に遊ばれる彼の髪がどこかかまってほしそうに揺れる印象を与えて。
思わず誘惑に乗って触れてみると、僅かに彼が反応して息を飲むのを感じた。
それでも振り向かないのは意地?
こうして私に振りまわされいじける所はまだ子供なのだと感じて逆に愛らしくも感じるのですよ?
ああ、でもあまり苛めすぎるのはよろしくない。
「・・・・・茜」
風の響きの様にさりげなくごく自然に名前を響かせる。
きっとふわりと柔らかく彼の耳に届いた筈。
それを示す様にゆっくりと綺麗なグリーンが私を捉えて見つめるから。
膝を抱えて座り、片手で頬杖ついた態勢で彼の髪をまだ遊んでいた私。
ゆっくり音も無く片手をついた彼がそっと私に近づいて頬に触れる。
「・・・・・千麻・・・」
名前を囁く唇がそっと頬に触れ、そしてゆっくり距離を置き確かめる様なグリーンアイが至近距離で私の眼を覗き込む。
そして顔を傾けて再度の接近。
「・・・・・っ・・」
「・・・・・懲りないのねダーリン」
「もう、ここまできたら意地だよハニー」
慌てるでもなく彼の唇に手を添えればもどかしそうに眉根を寄せた彼の非難。
もう日常。
コレすらも習慣化しつつあるやり取りなんだ。
愛も無いというのに可笑しな夫婦関係の夜は見た目ばかりは甘い。
こうして今日も夜は更ける。



