そんなタイミングに小さく響く開錠音と『ただいま』の声。
すぐにリビングに入り込んできた姿に視線を走らせ。
「おかえり」
「珍しい。俺を待たずにすでに晩酌?」
「ちょっとね・・・お酒の力を借りないと思考巡らせられない問題が浮上しちゃって、」
眉根を寄せてくしゃくしゃと髪を雑に乱してそう答えれば、相変わらず興味なさげに深くは追及しない彼がネクタイを緩めながらカウンターテーブルの椅子にその身を置いた。
「俺も今日は疲れた。だからビール頂戴」
「はい、」
「・・・・・・温い、しかも飲みかけ?」
「あなたの朝の言い分からすれば冷蔵庫に取りに行かなくても、もうすでに開栓され飲むだけのビールがあったから渡しただけよ」
「本当に揚げ足取るのが好きだね千麻」
「どっちが・・・」
自分の事を棚に上げてよく言うよ。と目を細め、冷蔵庫から冷えたビールを開栓するとコンッと音を響かせ彼の目の前に置いた。
スッと伸びた手がそれを掴むと口元に運び、ゴクリと喉で音を鳴らすと満足そうに微笑んで見せた。
そして、僅かに何かを言いたげに開きかけている唇。
だけど含みありに溜めて私を見つめるのはどんな意図か。
注意しないと一気に言い負かされるとどこか警戒を這って見下ろして、一向にやめないその視線に意を決すると声を響かせる。
「・・・・何よ?」
「いや、俺の疲れた仕事の話とか聞く余裕あるかなぁ?って」
「・・・・・・・ない。今日はこっちも無駄に混乱して疲れてるの」
誰が仕事の愚痴なんか聞くか。と自分の温くなったビールを口に運んで視線を彼から逸らした瞬間。
「そうか、・・・実は今日は大道寺との打ち合わせだったんだけど」
「っ・・げん・・・・・・・・・、元気・・・そうだった?」
「・・・・・うん、いいね。なかなか見れる千麻の表情じゃない」
「っ・・・」
悔しい。
心底悔しい。
うっかり、・・・そう、うっかりミス。
恭司の言葉に瞬発的に反応して振り返り言葉を発して、それでもすぐに追いかけた理性が追い付き感情に歯止めをかける。
それでも小声で聞きたかった事を短く聞いてみれば、どうやら羞恥に染まっていたらしい私は見事恭司のご馳走になってしまった現状。
私の・・・・馬鹿。



