考えないようにしても、そういうものほど知らず知らずに考えてしまうのが人間だ。
そして自分にとって深く関わることほど真剣に。
忘れようとしてもなかなか忘れられないあの出来事に眉根を寄せてキッチンに寄りかかる。
開栓して2,3口飲んだだけのビールはそろそろ温くなっているかもしれない。
時間も時間なのにお腹すら空かない私に、捉えたかもしれないあのグリーンアイが焼き付いて離れないのだ。
あと、
匂いも。
あの直後、
後遺症の様に眩暈がした。
もしかしたら彼だったかもしれないと思ったら体が即座に拒絶を示した。
それでも微弱に。
それこそ別れた頃のように強力ではない。
もしかしたらまだ確証持っての接近ではなかったからこの程度なのかもしれない。
それでも類似した気配に酔って目を回してふらつく足取りで帰宅したのは昼間の事。
それ以降は集中力の欠如。
家に戻っても仕事に集中できず、どこか動揺と興奮に満ちた体を沈めるようにソファーに横たわって半日を過ごし。
そしてようやく冷静に思考できるようになった頭をフル可動させ、微々たる情報を整理し反芻して必死に特定しようとしていたのだ。
でもどうしても引っかかる問題点。
もし、あれが彼であったのなら、あの時間帯に何故あの場所に存在したのか。
そうそう予定もなしに副社長が外に出ることはない。
もし外出を理由にしても午前中の早すぎる時間帯。
むしろあの姿はまだ通勤ラッシュに近い時間帯からその身をあの店に置いていた。
もしかしたらあの後遅れて仕事に向かった?
でも・・・・彼は私服だった。
上下黒で統一された装いで、その黒い色は指の先まで。
その目の色でさえも覆っていて、軽く犯罪者めいた印象強い姿であった。
あの姿の意味も分からない。
それに彼がするような装いじゃない。
やはり・・・・・他人のそら似だと結びつける方が手っ取り早いのだ。
たまたま・・・あんな夢を見た後だったから。
偶然髪の毛が通り過ぎ様に触れて揺れて、そして似たような匂いにいち早く誤認して早とちりして彼だと思い込んだ。
うん、
きっとそう。
なんとか、やや無理矢理ではあったけれどそう決断を下すと小さく数回頷いて、ようやく温くなったビールを口に運んでごくりと飲んだ。



