「・・っ・・・・狡い・・」
その一言に思わず噴き出さなくてよかった。
想像通りに葛藤の末そう結論の声を零した苦悶の表情の彼。
いや、こんな投げかけをしなくともこの結末は読めていたのだ。
『ああ、やっぱり』と思ったあの時から。
いや・・・もうずっと前から。
あなたはこうして牽制の様な脅しはしても、本当に強引で乱暴な行為に走る程不作法者じゃない。
そういう部分を理解して、それこそ私はそんな貴方の一面は尊敬すべき点だと感心しているのですよ。
素肌に触れていた手の熱が離れると、肌寒さを感じるより早く押し上げられていた服を戻された。
そしてすぐに優しく感じる彼の体重。
頬に感じる髪の感触。
ギュッと甘えるように抱きしめてくる彼に抵抗もせず、されるがまま夜空とコンクリートを半々に眺めていれば。
「・・・・・せめて手だけは背中に回そうよ」
ぽつりと不貞腐れた感じの不満が耳の近くで籠って響く。
確かに意味も無くコンクリートの床の上で空気を掴んでいた自分の手。
それをゆっくりと意識して持ちあげると彼の横腹辺りから触れそっと滑るように背中に回した。
ああ、こうして触れてみれば成人した男の人なんだと感じる。
それこそ5年前から見ている私。
もっともっと少年らしさ残る頃の彼を知っていて、あの頃の彼はまだ寄りかかるには頼りなく危なっかしい存在だと見ていたのに。
気がつけば心も体も大人になっていて、そう簡単にグラつくような不安さは感じない。
その肩書から【副】が取れるのもそう遠くないんだろう。
そしてそれはまた私にとって喜ばしい事でもある。
「千麻ちゃん・・・・また、余計な事考えてない?」
「・・・・・・子供の成長は早いなぁ。・・と」
「ねぇ、俺・・・一応23だから。成人式3年前に済ませてるから」
「存じてます」
「仕事だってちゃんと実力で登りつめたし」
「それに関しては私が一番お傍で見てましたから」
「だから・・・・千麻ちゃん養うくらいの度量はあるんだよ俺?」
「・・・・・・・はぁ、じゃあ、お抱きになったらいかがですか?」
「・・・・・・・・・最初にあんな脅しかけておいて?」
脅しとは?
どの部分の事だろう?と真剣に考え口を閉ざせば、未だに私を抱きしめたままの彼がその部分を口にする事も不愉快だと声を濁らせる。



