ーーーーONE MORNINGーーーー




フッと目を覚ます。


体内時計は正確で、いつも決まってこの時間だ。


それでも今日は・・・。


目覚めが悪い。


一番先にシーツに落ちている自分の指先を捉え、ゆっくりと目蓋を下すと仰向けに寝なおし目蓋を開ける。


そうしてしばらく呆けて現実の確認。


白い天井を見上げゆっくりと息を吐くと気怠い体を起こしていく。


暦の上でも感じる空気も秋の雰囲気感じさせる9月。


軽く寝癖のついた髪に手櫛を通すとあくびをしながらベッドを抜けた。


そして寝室を抜けてまっすぐに洗面所に行くと鏡を覗き込んで眠そうな自分を捉える。


そんな自分の目を覚まさせるように顔を洗い歯を磨き、適当に髪に櫛を通すとクリップでまとめ上げた。


同じ日々の繰り返し。


そのままキッチンに向かうとコーヒーを準備し始める。


ああ、そろそろだろうか。


そう思って時計を見るとほぼ同時に玄関の開く音と部屋に入り込んでくる足音。


別に泥棒なんかじゃなくこの部屋の住人。



「おはよう」


「おかえり」



投げられたのとは的外れな返答を口にしてカップを2つ用意する。


コーヒーメーカーがもう入り切るぞ。と、ゴポポッと鈍い音を響かせて、そんな瞬間。


後ろから絡んできた手に反応して振り返れば、それを狙っていたような笑み。


そして瞬時に捉えきれなくなった表情の代わりに、外気に冷やされた唇が自分の唇に押し当てられた。


密着して啄んで、抵抗しようと思えば出来る。


それでも、抵抗する理由もないか。とされるがままそのキスに浸るでもなく接触を感じて不動になる。


そうしていれば勝手に向こうからその唇を離し口を開く。



「おはよう。の挨拶には『おはよう』が正しくない?千麻」


「・・・・・・だって、今帰ってきた人に向けるのは『おかえり』が正しい反応でしょ?恭司」



そう言っていつだって嫌味な微笑みで人を見下ろす姿に淡々と切り返し、準備していたカップコーヒーを注いだ。



「早くシャワー浴びてくれば?汗かいたまま会社行きたくないんでしょ?」


「フフッ、千麻も入る?」


「・・・・・欲情でもしてるの?」


「冗談だよ」



呆れた眼差しで振り返って非難すれば、まったく堪えていない姿がにっこりと微笑みバスルームに向かった。


そんな同居人を見送るとコーヒー片手にキッチンを抜けテーブルの上のノートパソコンの電源を入れた。