夫婦ですが何か?







長年歩いたローカをヒールを響かせ歩く。


もう・・・・歩くことはないのだろうと意識して。


そうして意識を巡らせる。


同じフロアに彼の存在があるのだと感じて。


瞬時にこみ上げた感情が複雑すぎて判断がつかず。


歓喜なのか畏怖なのか。


恋しいのか、拒絶なのか。


どちらにせよ・・・・会う事は叶わない。


会ってもお互いが傷つく反応しか取れなくて、私の体が拒絶する様を捉えて絶望する彼は見たくないのだ。


そう判断を下す私は・・・・まだ、彼の為にと動いてる。




彼を・・・愛してる。




カツカツとヒールの音を耳に入れながら受け取った封筒をしっかり胸に押し当てエレベーターホールにつく。


ボタンを押して上り来る数字を見つめ扉が開くのを待った。


たいして間もなくゆっくりと重い扉を開けたエレベーター。


巻き上がる風をその身に感じながら狭い箱の中に身を投じる。


そして押しなれた1の数字を点灯させ、再度確認するようにエレベーターの中からそのフロアを見つめた。


誰もいない、走っても来ない空間。


そこにゆっくり頭を下げると閉ボタンを押して視界の閉幕。


下降する浮遊感を感じて体を起こすと、脱力したように壁に寄りかかって呆然とした。


これで・・・・終わりなのだと。


そうして目蓋を下した瞬間に・・・記憶の浮上。


背後から絡んでくる腕、ぬくもり、声。


息苦しい程のキス。


私を見つめる・・・・・グリーンアイ。


全て全て・・・・愛おしい物であったのに。


今も渇望して手を伸ばしたいほどだというのに、同時に体に巡る不快感。


気持ち悪いと感じて目蓋を開けた。


その瞬間に静かに頬に一筋涙が流れ、すぐに掻き消すように指先で拭った。


それを計ったように響く到着音にその身を起こし、まっすぐ扉の前に立つと浮遊感の終了。


ふわり、入り込んだ外気。


騒がしい会社のロビーだ。


ここも・・・・最後。


意識して一瞬見つめ。そしてゆっくりとその身を出して歩き出す。


見慣れた社員達が仕事に必死に通り過ぎて行って、それを横目にヒールを響かせ入口に歩きぬけていく。


そんなタイミング。


違和感。


小さな振動に、それの原因である物を探ってポケットに手を突っ込んだ。


そして取り出したのは携帯で、すでに振動終えたそれはメールの着信を知らせる物だったらしい。