Side 茜




ぼんやりとオフィスの壁一面のガラス窓から外の景色を眺める。


静かな一人きりのオフィス。


そうしてぼんやりしていたら背後から注意の声が飛んでこないかと期待して。


そんな筈・・・・ないのに。


馬鹿みたいだ。と口の端を上げるとずっと手にしていた紙を確かめるように見つめる。


その瞬間に記憶している数か月前の出来事が浮上して泣きたくなるんだ。



「ねぇ、・・・これにも・・・・あの時みたいに潔く躊躇いもなく・・・・・サインしたの?」




その問いに答える彼女は・・・・・・いない。


会えない。


会っても・・・・・・・・何もできないどころか・・・、




彼女が壊れてしまうだけ。




怯えて・・・、吐いて・・・・・。


見るだけで、


声を聞くだけで、


彼女のバランスが崩れる。




俺と言う存在の全力の拒絶。





だから・・・・・・有無を言わさず・・・、


思考することもなく、


必然。



俺が彼女に今できるのは・・・・。



契約の解除。






もう彼女の名前が記入された離婚届にサインする事しか選択肢はない。