一緒に暮らし始めてよく分かる。
彼は家で副社長を脱ぐと、会社にいた時以上にその性格を見せる。
今までさすがに一線のあった距離関係。
それを取り払って私生活を一緒に過ごすと彼は今まで以上に私に素をさらけ出し寄りかかる。
それはどこか子供の様に素直。
甘えて、我儘で、すぐにいじけて、でも気まずいままは落ちつかない。
そうして今の様に言葉ではなくちょっとした接触で元の関係に戻ろうとして。
分かりにくいそれに気がつくのも私の特権だろうか?
不貞腐れ私にはそのグリーンを向けないくせに小さく接触した感触だけは離れず甘える。
ああ、どうせその目は私を見ていないのだ。
小さく口の端をあげると、彼の手に握られたままの空のお猪口に自分の手に残っていた酒をあけた。
小さくカツんとガラスの感触を指先に感じ、当然同じ感触感じた彼のグリーンがようやく私に移って見つめ。
ふわりと柔らかいダークブラウンの髪が風に遊ばれ、バックに夜空のコントラスト。
そして宝石のようなグリーンアイ。
酷く出来上がった完美な芸術だな。
移された酒をグイッと煽る横顔を芸術品でも眺める感覚で見つめていれば、不意に腰に得た熱。
静かに自分の腰に回った手がそれこそ気づかない程静かに私の体を引き寄せて、さっきより距離が縮み密度を増す肌。
牽制する?
いや、まだまだ。
まだ、警戒範囲なだけ。
まだ、取り立てて拒絶を示す様な彼の行動じゃない。
だから特に焦るでもなくじっとグリーンアイを見つめてからゆっくりと夜景に顔を向けていく。
「千麻・・・」
響く声音でその機嫌を測れる。
うん、少し面白くない。
そんな響きだろう。
それと同時に不愉快を示す指先が私の顎のラインを滑り、そのまま乱暴ではないけれど確かな力で視界の切り替え。
グリーンアイがその欲求を直に示すと、風が吹くのと同じ事の様に自然と寄った唇。
ああ、絶妙。
賞賛にも値するタイミングや自分の持ち得た魅力の活用。
焦らすためか躊躇う姿を示してか、近づく早さまで計算されてて。
パーフェクト。
でも、
・・・・・こんな思考を与える段階で、私にはその甘い毒は作用していないのですよ。
「チッ・・・」
指先に唇の感触を得た直後に耳に入る舌打ち。
不機嫌を強めたグリーンアイが私を非難するのに軽い優越。



