Side 千麻
恭司とは少し間を空けてエレベーターに乗り込みオフィスに戻る。
そして壁に寄りかかるとまだただの平らな腹部に触れて過剰に実感。
そうか・・・妊娠しているのか。
まだほんの小さな点に過ぎないけれど確かに彼との子供がそこにいるらしい。
そう思うと今までの苦しい期間は何だったのかと思うほどすっきりとしていて、自分の中にあるのは迷いなき彼への愛情と新しく得た命への愛情。
さて、この報告をどのタイミングですべきかと少しワクワクしながら考えてしまう。
どうせなら彼が驚くタイミングがいい。
心底驚いて・・・、心底喜ぶタイミング。
そんな事を考えている間にエレベーターは点灯させた数字まで上り詰めその扉を開いた。
ローカをカツカツと靴音響かせ、まずは遅くなったことへのご機嫌取りかと小さく笑う。
そうしてノックして口元の笑みを消すと『戻りました』と扉を開けた。
デスクでパソコンに向かい不機嫌な彼を捉えるかと思った。
でも実際は人の気配のないガランとしたオフィス。
ガラス張りの向こうに冬晴れの景色を捉えどこか物悲しさも感じる。
一体どこに行ったのか。
疑問に首を傾げて自分のデスクに行き鞄を置いたタイミング。
今ほど自分が通ってきた扉が開き、やっと本当の父親である人の帰還。
なのに・・・。
チラリとこちらを捉えたグリーンは不機嫌だ。
でもそれは想定内の事だと怯むでもなく、無言でデスクに戻る彼に雛華さんから預かった封筒を手に近づいていく。
「戻りました。雛華さんからこれを、」
そう言ってA4サイズの茶封筒を差し出すと、ちらりと封筒を捉え無言で受け取る彼。
ああ、不機嫌。
「遅くなってすみませんでした」
「・・・・・それだけ?」
「・・・・電話にも気がつかず、すみません」
「・・・・・それだけ?」
「・・・・・それだけ・・・とは?」
「俺に謝るような後ろめたい事はそれだけ?」
一瞬言葉に詰まる。
不機嫌にその視線は私に絡まない。
なのに確実に威圧する雰囲気と声音。
一体・・・何にここまで怒っているのか。
遅刻が理由にしては過剰なそれだと疑問に感じ、それでもそこまで彼が起こるような理由も思い当らない。
ピリピリとした空気に段々こちらの方が怪訝に眉根が寄って、はっきりしないもどかしさにそれを声にも現わしてしまう。



