「雛華さん、仕事の話をしに来たのですが?」
「話って・・・出来上がった書類を受け取りに来ただけでしょ~?」
「立派なお仕事です。そして新たなそれも持ってきていますから」
「うえ~、茜ちゃんってば俺を酷使しすぎじゃない?」
「副社長はその倍働いておりますから。それにもうすぐ一児の父でしょう?しっかりしてください」
どうもやる気の見えない怠けた態度に溜め息交じりに叱責すると、お構いなしにみかんを口に放り込む雛華さんがちらりと私を見てからみかんを差し出してくる。
「食べる?」
「いりません」
「でも、ビタミン取っておけば?顔色悪いよ?」
「少し・・・生活習慣の乱れが原因なだけです」
「茜との結婚生活が乱れてる?」
「・・・・・」
「・・・・・・沈黙は肯定に取られる物だよ?」
興味があるんだか無いんだか。
みかんを口に運びながら集中力半分のような姿でさらりと言ってのける雛華さんに無言で返してしまった。
だって確かに肯定。
取り繕って平常を繰り返してはいても問題はあの日から放置したままなのだから。
そうして黙り込んでしまえば黙々とみかんを食べきった雛華さんがおもむろに私の指輪を指さし口を開く。
「・・・まだ、茜との結婚に迷ってるの?」
「・・・・・・はい、」
「まだ、・・・【好き】って感情だけじゃ突き進めないの?」
「・・・・・・突き進む・・方法が分からないんです」
ふぅっと息を吐くともう防御の解除。
そうして晒す表情は疲労したものであったかもしれない。
もうずっと・・・・疲れている。
自分のわけのわからない葛藤に。
それによって上手く歯車が回らなくなった自分と彼の関係に。
それこそ【好き】なのに。だ。
「茜が好きなんでしょう?」
「好きですよ。苛めたいほどに」
「一緒にいたいんでしょ?」
「ええ、隙あらばからかってくだらない事話すくらいに」
「じゃあ、結婚してれば?」
「・・・・」
「黙っちゃったよ」
呆れたように雛華さんが溜め息をつくと慣れた感じにお茶を入れ始める。
急須にお茶っ葉が投入されてお湯が注がれ、のぼりたつ湯気をぼんやり見つめて思考の停止。



