出社して、程々にデスクワークをこなしてから支度を整える。
それを子供の用に不満げに見つめる彼を横目に何食わぬ顔で鞄を手に持って席を立った。
「それでは、迅速に雛華さんの所へ行ってまいります」
嫌味に【迅速】を強調すれば眉根を寄せた姿が精一杯の強がりとして、さっさと行けとばかりに手を振って。
それにクスリと一笑すると部屋を後にした。
ローカを自分のペースで歩きぬけて、エレベーターのボタンを押す。
程なくして厚い扉がふわりと風を巻き起こしながら開いて、時計を見ながら乗り込むと1を点灯させた。
そしてゆっくり扉が閉まり始めもう閉まり切る瞬間。
「・・っ・・・」
「・・・・・忘れてた」
心底驚いた。
閉まる直前にそれを阻止して入り込んだ手と、ゆっくり開いた扉から滑り込んだ彼の姿に。
多分走って来たであろう息切れの姿を唖然と見つめ、次の瞬間には熱い呼吸を口内に送り込まれた。
クラリとする。
トンと背中に感じるエレベーターの壁。
ゆっくりと閉じた扉と下降し始める浮遊感。
「・・・・・・いってらっしゃいの・・・キス?」
「・・・馬鹿じゃないですか?しかもエレベーター動いてしまいましたけど・・・」
心底馬鹿だと頭を抱えて詰るのに、ニッと悪戯に笑う彼に本気で怒れない。
ああ、もう・・・。
困ったように眉尻下げて、でも口の端を上げた。
そしてネクタイを掴んで引き寄せると唇を重ねた。
まるでそうされるのが分かっていたかのように背中に回る手と重なり深くなるキス。
なんて不誠実でダメな関係。
平日の勤務時間。
「・・・・・いってきますの・・・キスです」
「・・・うん、・・いってらっしゃい」
2が点灯されたタイミングで唇を離して理由付けすれば、クスリと笑った彼が見送る言葉を告げる。
言い終わったタイミングで厚い扉が開いてふわりと風が入り込む。
穏やかだと感じた。
この瞬間が好きだと。
そうして彼にトンと背中を押されて外に出ると首だけ振り返って手を振る彼を捉え小さく笑って見せた。



