沈黙のまま到着したのは有名なホテルの前で、昼食はその中の和食の店。
重苦しい空気を纏いながら車を降り、それでも自分の仕事だと気合を入れ直す。
私は秘書。
そう言い聞かせ上司である彼の前を歩いて予約された部屋に誘導する。
どうやら先に到着していた社長や副社長に遅延を詫びて頭を下げ、彼が席に着いたのを確認して身を引こうとした。
「いやいや、一緒にどうぞ。秘書とは言っても大道寺の奥方だ」
そう言って彼の隣に同席を促す相手に微笑みながらも謙遜する。
だって今は・・・きっと耐え切れない。
それにすでにさっきの車中のやり取りで緊張感高まり気分も悪い。
それでもにこやかに進める相手の社長に眉尻を下げそうになったタイミング。
「すみません。・・・・どうやら、彼女は車で酔って気分がすぐれないようで。失礼とは思いますが席を外させてもよろしいでしょうか?」
申し訳なさそうな笑みで相手にそう告げたのは彼の助け舟なのか、また失敗を繰り返しそうになった私のお払い箱か。
探ろうにも副社長の仮面で本心を隠す姿からは探れない。
どっちにしろ・・・・私には好都合だ。
内心小さく動揺しつつも頭を下げてその部屋を後にする。
襖を閉めて和風な造りのローカを歩きぬけて、店そのものからでた瞬間。
「っ・・・」
グッと腕を掴まれ引かれた行為に心底驚き振り返った。
捉えたのは鋭いグリーンアイ。
かと、
思った。
ああ、相変わらずの匂い。
「・・・・・困った」
「何が?」
「顔が泣きそうだってからかうつもりだったのに、」
そう言った彼も充分にいつもと違う表情をしている。
動揺して、困った様な笑み。
いつもの嫌味の皆無な。
「もう・・・・泣いてる」
指摘されて頬を伝う涙に気がつき更に涙が溢れた。
ああ、こんな自分この男には見られたくなかった。
情緒不安定な私なんて・・・・きっと馬鹿にされるだけ。
「・・っ・・・・」
と、思っていたのに。
強まった匂いと、久しぶりだと感じる感覚。
頬に高そうなスーツの質感を感じて、頭に回った手が髪を撫でる。
「・・・・・・何?・・・恭司?」
「・・・・・・俺でよければ・・・吐き出せば?」
まるで精神科の先生が患者に促すように、柔らかく耳元に囁かれた提案。
そうすれば楽になるとでも言うように。



