「では、私も一度部屋に戻り支度を」
そう告げた彼が私にそれを促し歩き出す。
まだ動揺に満ちる心音を感じながらも責務を全うしようと一度頭を下げその場を離れ始め、彼と一緒に社長室を後にした。
無言。
でも動揺していても分かる彼の不機嫌。
そしてその対象も理解している。
だからこそ驚かなかった。
自室に戻った瞬間に雑に壁に押し付けられた行為に。
それでも・・・・射抜くような鋭いグリーンアイは恐いと感じた。
自分に非があると分かっているから。
「・・・・・・ねえ、【らしく】ないミスだよねぇ?」
「すみません」
「『私の深い心情知ってる俺なら見逃して許してくれるだろう』と、でも思った?」
「いいえ」
声が震える。
仕事の上での完璧なミスだから。
どんな心情であろうと、好意に対してしてはいけないミスをした。
それも重役同士の・・・下手したら角が立つ場面で。
「・・・すみませんでした。でも・・」
「でも・・・?私的な言い訳なら聞かないし通用する場でもない事千麻ちゃんが一番理解してるんじゃないの?」
「・・・はい、」
「・・・・・・困るんだよっ・・・・、きっとこんな場面まだ何度もあってさ、そのたびに過剰反応されても・・・」
深い溜め息ともどかしく頭を掻く姿に強く失望を感じて息苦しくなる。
仕事の上司として当然の叱責。
それでも息苦しくて胸が痛くて・・・・・・気持ち悪い。
「・・・・・すみません。気を付けます」
「・・・・・・・・じゃあ、・・・・出かける準備して」
結局その反省の言葉でしか返せず、相手を怒らせた場面でもないから謝る先も彼しかない。
そして彼もそれを受け流すしかないのだ。
お互いの心情を混ぜて捉えてはいけない場面。
彼の行動がや反応が一番正しいのだ。
例え、私の心情を理解して動揺を受け入れていても。
私と彼は秘書と副社長なのだから。
それでも失意の様なグリーンアイが苦しくて、辛くて、気を抜いたら泣いてしまいそうだ。
でも泣くわけにいかないと深く息を吸うと受話器を取り内線。
移動の車を用意して、食事の会場を確認して。
そしてパソコンにロックをかけたタイミングに視界に入るデスクに無造作に置かれたお札とお守りと・・・・左手の輝き。
情緒・・・不安定・・・・。



