夫婦ですが何か?




本当は行きたくないのであろう彼の足取りは重い。


それでも会社の重役である責任や交流。


渋々その身に上着を纏うと歩き出す姿に反応しすかさず扉を先に開く。


そうして私の目の前を通過する瞬間。



「今度は盗られないでよ?」


「重々承知しております」



牽制の響きに満足いくであろう返事を返し、会社であるべき自分たちの距離感で社長室に向かう。


社長室は同じフロアの丁度反対側の一面だ。


エレベーターホールの前を通過してガラス張りの日差しの眩しいローカを抜ける。


そうして私たちが身を置くオフィスと類似する扉の前に立つとノックして入室を求め、すぐに返された許可の返答に扉を開けた。


中に入れば応接用のソファーに座る大塚の社長と副社長に、対面する我が社長様。


そして懸念の対象であった男は当然今日も抜かりのなさそうな姿で端に立つ。


一瞬彼の舌打ちが本当に小さく耳に入って、呆れて視線移した表情は一応笑顔だ。


まぁ、私にしか聞こえない程度だったからいいけれど。


見事副社長として仮面をかぶった彼がにこやかに社長の隣に立ち新年のあいさつを交わすと座った。


そうして重役同士他愛のない会話が始まり、特別この場にいる理由はないであろう会話を耳に流した。


時々、ちらりと同じように無意味にこの場に立つ男を見る。


それでも視線は絡まず。


絡んでも困る物だと分かっているからすぐに視線を逸らしていく。


他愛のない会話。


昨年はこうであったとか、あの会社がどうとか。


主婦の井戸端会議の規模が大きいような物だ。


永遠にこんな話題なら戻って仕事をしていた方がどれだけ会社に貢献できるかと時計に視線を走らせた瞬間。



「水城ーーー」



呼ばれた名前を一瞬聞き流し、でもすぐにそれが自分の物であったと理解して反応する。


さすがに会社の勤務時間では夫婦別姓の方が間違いがないとそうしていたのだ。


そして社長に呼ばれるまま私には関係のなさそうな輪の中に引き込まれ近づくとその身を彼の隣に並べられ、いったい何のご指名かと視線を目の前に移していけば。



「昨年はご結婚おめでとうございました」


「いやぁ、盛大な結婚式の印象は今もしっかり焼き付いておりますよ」



そう言ってにこやかにお世辞を言う相手先の重役2人に形ばかりに微笑み頭を下げる。


まぁ、本来並ぶのは私でなかった結婚式だけど。