Side 茜
促されるまま父の後につき書斎に入った。
久しぶりにこの空間に入ったと思うのもつかの間。
くるりとこちらに向きを変えた父の何とも言えない含み笑いに瞬時に危険予測。
でも、完全な防御がままならない内にその牙を立てられた。
「で?・・・千麻ちゃんと何か喧嘩中なのか?茜」
鋭い。
瞬間、本当にこの人に隠し事は出来ないと溜め息。
諦めたように片手で頭を支えると、確信を得た父がにっこりと微笑み説明を求める。
何をどこまで語っていいのか躊躇い、それでも最近起きた2人の事は包み隠さず話すべきかと言葉を探しながら答えていく。
「まず・・・・喧嘩とは違うと思う」
「まぁ、喧嘩だったらもっと千麻ちゃんが攻撃的だろうからなぁ」
「逆に・・・喧嘩ならもっと動きがとりやすいんだ」
「・・・・・つまり、喧嘩はしていない。もっとメンタル面の深いすれ違いか?」
的確な父の突っ込みに、近くにあった本棚に寄りかかって苦笑いで頷いた。
そう、喧嘩じゃない。
だからこそ厄介でどう反応していいのかわからないんだ。
「・・・・・千麻ちゃんにプロポーズしたんだ」
「ははっ、もう結婚してるのに?」
「茶化さないでよ。この結婚の根本をよく知ってるくせに・・・」
「まぁ・・・・、確かに?本来持ち合わせる愛情抜きで始まった結婚だ。時代錯誤な家同士の取り決めの結婚以上に愛の無かった結婚」
「ご説明どうも」
皮肉ったらしい。と目を細めて非難してみれば、痛くもかゆくもないと軽い一笑で流される。
そして俺から事情聞かずとも凡そ検討のつくこの父はやはり凄いと感心することになる。
「で?事情はよく分からんが・・・・お前がここぞと思ったタイミングと彼女のそれが噛み合わなかったってところか?」
「・・・・・多分ね。・・・・悩んでたから・・もともとの縛りを無くせば彼女も俺ももっと楽に思い合えるんじゃないかって思ったんだ」
「でも・・・、結果彼女の悩みを深めた?」
「・・・・俺に触られるのも怯えるほどにね」
あの日、あの瞬間までははっきりと感じた彼女の愛情。
始まりこそ感じることなかったそれが時間を重ねる毎に明確で、色が濃くなるその度に歓喜して愛おしくて苦しくなった。
皮肉屋で辛辣なのは相変わらず。
でも確かに甘い見返りをくれるようになった彼女。
確実に・・・・俺を好きだと告げてくれた彼女。



