まぁ、そう言うのなら従うしかないのかとやりかけの仕事に戻っていき、集中するために音楽を聴いて彼の存在をシャットアウトしたつもりだったのに。
なんか・・・背後のキッチンが戦場化してる気がする。
そしてなんか・・・・甘いけど焦げた匂いがしているのは気のせいであってほしい。
「あっ・・・あっあっ・・・ヤバい!!焦げた!!」
やっぱり・・・。
私を癌にでもさせたいのかこの男。
そもそも・・・自分で普段語るほどに料理の才能がないと言っているあなたが何故?!
「あれ?なんかふにゃふにゃしてるけどいいのか?」
何が!?
「粉撒いてもくっつくし・・・切れないじゃん・・」
よくわからないけど何かの生地が緩いのか?
「はみ出すっ・・・えっ?これでいいの?ってか出来上がりこんな薄いっけ?もうちょっと厚いのが正解?」
ヤバい・・・・現状で明らかなる失敗のフラグ。
出来上がって持ってこられてもそれが何なのか分かるものであるといいな。
そんなささやかで淡い期待を抱いている間に何とか彼なりにまとめた何かがオーブンに投入されるのを気配で感じた。
あまり期待は出来ない。と溜め息をつきつつ、作業が終わった事により静かになった背後に意識が走らなくなった。
そうして耳に流れる自分好みの洋楽を聞きながらキーボードを無心で打ち続けてしばらく。
あまりに静かで存在を忘れつつあった。
でも不意に思い出させられた瞬間には強烈で、驚愕に目を見開いたほど。
音楽と仕事に集中していて近づいてきた気配に気がつかず、フッと強烈な甘い・・・軽く焦げた匂いを感じた時には唇に何かが触れる。
驚きで口を開いた瞬間には容赦なくその塊を放り込まれ、結果それに対して見た目で判断するより早く舌での感想を求められた。
捉えるグリーンアイは満足そうににこやかで、その顔には所々白い粉で頑張った勲章と言いたげに色づけられて。
躊躇う事も許されず舌の上に乗せられた何かを驚きながらも噛みしめた。
直後・・・。
「・・・・・・・・甘い・・・・と、同時に【苦い】が同じほどの感想で来るのは正解ですか?」
「えっ・・・、あれ?やっぱり苦い?」
「・・・・・人に食べさせる前に毒見してから持って来て下さい」
どうやら完成品を味も確認せずに人の口に放り込んだらしい彼に殺意が芽生える。
苦いだけじゃない。
何やら多分、サクサクが正解の食感らしいそれは中途半端で時々ふにゃふにゃしている。
苦いのは中身であった林檎に絡んでいる糖類が焦げた物。
強烈なカラメルの苦味と言うのか。



