今日という日は・・・。
深く深く溜め息をついてベランダに身を置く。
いつもの彼の服を纏って。
平常通りの夜のおとずれに心底安堵しながらロックグラスをカランと鳴らす。
夜風がふわりと髪を遊んで、さすがに寒くなってきたと感じた瞬間に図ったように絡み付く熱。
「寒くないの~?」
「・・・・・寒いです」
今この瞬間になるまでは。
寒いと感じた直後に背後から抱きしめてきた姿を軽く首をひねって確認すると。
今も満面の笑み継続でじゃれる様に密着する。
そう継続。
雛華さんと芹さんが仲良く帰宅してからずっと、隙あらば密着していくら非難しようと満面の笑みなのだ。
「そろそろ鬱陶しいんですけど」
「そんな冷たい事言っても無駄だよ~。本当は激しく妬く程俺が好きな事知ってるもーん」
「へぇ、良かったですね」
「うん、幸せ~」
ダメだ、今の彼には何を言っても効果がない。
上機嫌で私の体を抱きしめる彼に溜め息をつきつつも安堵して身を任す。
確かに今日は不足していた抱擁だと思う私も末期なのか。
いつの間にか当たり前になっている彼の存在や熱。
それを確かめるように目を閉じて、しばらくしてからゆっくり光を通した。
月明かり。
数時間前は雛華さんと並んで見上げた。
そして・・・・思いがけず再確認した自分の感情。
「・・・・・・あの2人・・・本当に家族になるんですね」
「ん~?ひーたんと芹ちゃん?もう夫婦じゃん」
「そうですけど・・・、そうじゃなくて・・・・、」
ただ、気持ちの上じゃなく、紙の上じゃなく。
2人の血を引く子供が産まれて・・・・・・確かなる夫婦に・・家族になるんだな。
正しい家族の在り方。
それを見せつけられた気がした。
そしてあの瞬間・・・・・、
思わず手を伸ばしたくなった。
記憶の回想。
思い出しても眩しいくらいの瞬間に思いを馳せて、背中に彼の熱と重みを感じロックグラスに口をつけた。
そんな瞬間。
「・・・・・・・・っ・・」
「千麻ちゃん?」
「・・・・・・」
「・・・ん?どうした?」
「・・・・・・・・・すみません、」
不意に体に感じた違和感に眉根を寄せた。
そして確かめるように不動になった後、決して悪意なく彼を振りほどいてリビングに戻る。
そのまま部屋を横切って、酷く焦った響き方をする心臓に眉尻が下がる。
嘘・・・・。
そんな感情で駆け込んだのはトイレ。
そして・・・・・・・呆然。
心臓の音が耳の奥で響いている様に聞こえる。
ドクンドクンと追い詰めるように大きくて、しばらく呆然とトイレに籠城。
すっかり自分の中で時間の概念が抜け落ちていたらしく、さすがに心配になった彼が2回ほどノックして声をかけた。



