夫婦ですが何か?





一瞬呆けてそんな事を思ったけれど、忠犬の様に玄関で彼を待つつもりはない。


そう思考が戻ると煌々と明るいリビングに戻り冷蔵庫を開ける。


彼が戻って来るまでに少しでも何か口に入れる物を作っておこうと思ったからで、冷蔵庫の中から簡単に何か作れそうな材料を取り出しキッチンに並べる。


そしてマナーとばかりに手を洗おうとコックに手を伸ばしピタリと止まる。


意識したのはライトにキラキラと反応する高そうな指輪。


濡らしたくないな。


そんな事を思いながら自分の顔面に持って来て輝きを確認する。


ああ、なんて高そうな。


私なんかにこんな高価な物必要なかったのに。


望んでいなかった夫婦の証しをじっくりと見つめ、必要ないと思いつつも彼の言葉を思い出し少し目を細めた。



「報償・・・か」



この価値ほどに・・・彼は私を評価してくれている。


その事実だけは・・・純粋に動悸が走る。


ときめきとは少し違うけれど・・・一応彼はわたしに動揺を与えたわけだ。


そして今も私の身を案じ家に留めた。


全て全て善意の行動だ。


それを全て流して自分を貫くのはさすがに反則だろうか?


何となく自分の髪を触ってその長さを確認してしまう。


さすがに魔法の様に一日でこの髪を伸ばす方法なんて知らない。


まぁ、手が無いわけじゃないのよね。


そんな事を考えしばらく不動になっている間に、今まで耳に入りこんでいた音に新たな音が加わって視線を窓の外に移した。


それを確かめるように窓に近づいて高層マンションの外の世界を確認すれば。




「・・・・・雨だ・・・」




確かに、帰りにはもう厚い雲と雨の匂いがしていたっけ。


記憶を反芻して降り注ぐ雨をぼんやり見つめていたけれど、不意に気がついた事に玄関を振り返ってしまった。


傘・・・、持っていってなかった・・・。


近いと言っても確実にずぶぬれになる様な雨脚と距離。


考えるまでも無くすぐにその結論に至った。