「・・・・お騒がせしてすみませんでした」
目の前で芹さんが気まずそうにおずおずと私に頭を下げる。
彼に促され、雛華さんも一緒にマンションに戻ると、部屋のソファーでその身を小さくしていた芹さんが駆け寄ってきて私に謝罪したのだ。
そしてちらりと私と彼の後ろにいる雛華さんにも視線を走らせる。
雛華さんといえば車で移動している間に僅かにも回復した理性で気まずそうにこの場に在籍する。
彼の言う通り先程の事は一切覚えていないらしく、ただ今は自分を蝕むアルコールと戦っているらしい。
「とりあえず・・・芹ちゃん座りなよ」
真っ先に動いた彼がこの期に及んで馴れ馴れしく彼女の背中に手を添えたのに瞬時に反応してその手を掴めば。
予想もしなかった私の行動に驚愕を見せた彼を睨み上げる。
「・・・・この手はなんでしょうか?」
「えっ?何って・・・」
「馴れ馴れしく・・・他所の奥様に触るその意図はなんでしょうか?」
はっきりと諸々説明しろ。と問い詰めるように睨み上げる。
だって、今も昼間の事も黒に限りなく近い疑いはまだ晴れていないのだ。
そうしてまだ許したわけじゃない。と態度全面で示して見せれば、フッと噴き出した彼がすぐに口元を押さえて芹さんに視線を移した。
「ねぇ・・・なんか、そっちの揉め事解明しないと我が奥様のお怒りも解けなそうだから言ってもいい?」
苦笑いで彼女に了承を求める彼に、複雑な表情で雛華さんを見つめた彼女が渋々小さく頷いて見せた。
そして彼の声は一番に雛華さんに向けられた。
「さて、ひーたんは芹ちゃんが怒ってる理由はもうわかったかな?」
「・・・・分かってたらここまで揉めてない」
「全く後ろめたい記憶はない?」
「無い」
酔ってはいてもはっきり断言する雛華さんの返答は相変わらずだ。
そして嘘を言っている様にも感じない。
それはどうやら芹さんにもしっかり伝わっているようで、その宣言を今冷静に聞き入れた彼女が逆に動揺して困惑している。
そんな彼女に訳知り顔でクスリと笑う我が夫。
「つまり・・・残念な事に芹ちゃんがお怒りの理由はひーたんの中では記憶されていない事らしいよ」
「・・・・・・・嘘でしょ・・・」
そう呟いた彼女が落胆し頭を抱え、脱力したようにその場に座り込むのを彼が支える。
またそうやって過剰に・・・。
隙あらば接触図る彼に苛立つものの今口を挟んではせっかく解明されつつある時間に水を差すだろうと口をつぐんだ。



