夫婦ですが何か?




引かれた瞬間は驚いたけれど、決して抵抗なくすぐに自分の足取りで彼に付き従う。


だって彼女が残るといったこの部屋に何で私だけが気まずく残らなければいけないのか。


こんな苛立つ感情でまともな生活なんて出来る筈ない。と、雛華さんと一緒に玄関扉をくぐった瞬間。



「ちょっと・・・千麻ちゃん!落ち着いて話・・・」



慌てて手を伸ばした彼を振り返りはする。


でもしっかり捉えてすぐに玄関扉を閉めてシャットダウン。


きっと・・・・、


正しくない行動。


そう理解するのに感情的に行動が先走る。


隣にいる雛華さんもそう。


怒っているのか、葛藤からなのか、珍しくその顔を曇らせたまま足早に歩みを進める。


もどかしいのは私も一緒だ。


そして振り返りたいのに出来ない感情も一緒。


今にも扉を開けて追いかけてきてくれる姿を期待して、なのに小さなプライドが邪魔して振り向けない。


女々しいとも感じたくない。


そしてその感情継続のまま引き止める姿も声もなく、葛藤の塊である2人が相手を変えてその身を濃紺の空の下に晒す。


夜風が寒いと感じた。


さっきまで怒りで高まっていた筈なのに。


吹き抜ける風に馬鹿にされているような感覚に陥りながら視線を足元に落としていき、今更足を速めても仕方がないと歩幅小さく一歩を出したタイミング。



「・・・・・ごめんね、千麻ちゃん」



響いた声に顔を上げて瞬時に切なくなった。


ああ、この表情は・・・・・本当に久しぶりだ。


もう一生しないのだと思っていた。







そんな・・・・泣きそうな顔で笑わないで。






月の逆光で陰る彼の顔は笑っているのに悲哀一色だ。


あの頃のように。






「・・・・・・・飲みましょうか?」


「えっ?」





一息吐いて月に視線を移してから一言、そう告げれば悲哀が驚きに切り替わる。


その変化に小さく安堵してクスリと笑うと多少私より前にその身を置いていた彼に並んで背中に触れた。


でも軽く促すようにトンと。


そして彼を通り過ぎて振り返りながら補足。



「ヤケ酒です。・・・・・・いえ、月見酒と称した方が響きがいいですね」



そう言って丸みを帯びた月を見上げてしっかりと彼を振り返ると、唖然として月を見上げた姿がゆっくり私と視線を絡ませてからクスリと笑った。



「やった・・・・美人のお酌つきだ・・・」



力の抜けた会話。


溢れ者同士傷を舐めあうように酒ですべてを吹き飛ばそうという提案に、彼が苦笑いで了承した。