「・・・・・・・現場・・・押さえる?」
隣で不動だった雛華さんがぽつりと提案した言葉に、一瞬思考してから反応を返す。
「雛華さんが・・・その現場を捉える勇気があるのであれば、」
「ははっ・・・・・・・、それ・・・経験済み・・・・」
「・・・・・・・・経験済みなんですか、」
「悪いけど・・・・あの惨めさはもう耐えきれない」
そう言って過去のそれもシャットダウンするかのようにサングラスを深くかけ直した雛華さんに深く同情。
そして同時に自分の不誠実な夫に怒り心頭。
何が『抱き心地が悪くなる』よ。
その体求めて散々絡んで・・・・・、今となっては無責任に人で繁殖しておいて・・・・。
中での不誠実を見通すように高級感ある外観を睨みつけ惨めさを怒りに灯した。
浮気は許さないって・・・言ったでしょ?ダーリン。
オフィスのデスクでひたすらキーボードを叩き続ける。
一瞬でも止めたら余計な思考がめぐって発狂しそうだと思ったから。
そして未だ不在の彼のデスクは見て見ぬふりで、しばらく時間の概念も忘れるように時計の存在も自分から消した。
あの直後、とりあえず家に帰ってから芹さんと話し合うと言って去った雛華さん。
彼の心中ばかりが心配だ。
そして不意に襲った懸念にさすがにキーボードの音が止まる。
「・・・・・思い余って川とかに飛び込んでないといいけどな・・・」
不吉だけどもやりかねない程消沈した姿に変に動揺し、電話でもしてみようかと迷って携帯を見つめた。
そんな瞬間。
ガチャリと響く扉の開閉音に眉根を寄せて、そちらに意識を戻したくなくて仕事の再開。
自分の打ち出す音以外は静寂で平穏だったそこに問題発生。
しかも今は私を逆なでるようなテンションでの。
「ただいまハニー」
「・・・・・規定外仕事ご苦労様です」
「いやん、お怒り?ね~、怒らないでよ?俺が優秀で遅れを出さないことくらい千麻ちゃんなら分かってるでしょ?」
「では、さっそく後れを出さないべくデスクに戻られてはいかがでしょうか?」
暗に、私に関わらずあっちに行け!の意思表示で視線は画面のままキーボードの不協和音響かせ促していく。



