常識?
ああ、常識で言うのなら・・・・。
「副社長・・・」
「ん?」
「・・・・・日本語が変です」
「・・・・・」
「そして・・・勤務中です。仕事、お願いします」
「・・・・・・・」
まっすぐ真顔でそれを言いきれば、ハトが豆鉄砲食らったように一瞬呆けた彼。
でもすぐに困ったように微笑む彼が『まいった』とぽつりと告げて絡んでいたその手を解いていった。
「ダメかぁ・・・」
「何がですか?」
「ん?千麻ちゃんをときめかすのは容易でないな。って」
「ああ、・・・そうそう5年の精神的苦痛が愛情には切り替わらないかと、」
まだまだ動じないとはっきり告げれば苦笑いで『あ~あ』と息を吐く。
そして少し悔しそうに私を見つめ、スッと伸びた手が髪の毛を指先に絡めてすぐに離した。
「ロングの千麻ちゃん・・・見たかったのになぁ」
「仮にときめいても一瞬で髪は伸びません」
「知ってるよ。でも伸ばしてくれるかなって」
伸ばしても、1年では大した長さにはならないでしょうね。
そう、言い返さなかったのは・・・・さすがに空気を読んで。
だって、1年だと知っていても私にしっかりと誓いを立てその証を捧げた彼なのだ。
それを全て否定する様な言葉は今は間違っても言ってはいけない。
心の中で得た答えに頷いて、そして適切な言葉を考え始める。
その間にゆっくりと背中を向け部屋に戻るべく歩き始めた姿にようやく言葉を見つけた。
「・・・・ありがとうございます」
声を響かせればくるりと振り返った彼が疑問を映して緑を揺らし、それに応えるように自分の左手を掲げて示した。
「意味はともかく・・・ファッション的には好みです」
暗に気にいった。と告げれば、そこは付き合いの長さ。
すぐに理解した彼が満面の笑みを浮かべ自分の左手を掲げる。
「仕事に戻ろうかハニー?」
「ああ、それは大賛成です副社長」
彼の手に存在するシルバーリング。
そして言葉で暗に夫婦だと言いたいのだろう。
それを理解しつつも会社と言う場でそれに乗る気はないと【副社長】を強調すれば、おかしそうに笑った彼が歩き出す。
そして慌てて自分も動き出すと彼の少し前にその身を置いた。
まだ後ろは追いかけない。
いや、一生追いかけるものか。
いつだって一歩前を歩いてやる。



