思い悩んでもこればかりは今は何もできない。
そう自分を諭し納得させると固く閉じていた双眸に光を通した。
同時に自分の腹部を柔らかく触れて、遅かれ早かれ結果は分かると頷いた。
そして気持ちの切り替え。
とにかく今は昼食を取ろうとその足を自分のデスクに戻し、【お願い】という彼の呪いの効果大に財布を取り出すと小さく笑った。
従ってしまうところがもうすでに負け。
そんな自分に呆れつつもパソコンをロックして部屋の入り口に歩き出す。
さて、今私は何が食べたいのかと真剣に考え、確かに意識がお留守だったと認める。
でも・・・、
「っ・・・」
「・・・・・・驚いた」
「それは・・・・・こちらのセリフです」
「ごめん・・・・なさい?」
「本当・・・大道寺という家系にはノックをしてはいけないという暗黙のルールでもあるんですか?」
嫌味にも不満をぶつけて彼を見上げる。
見下ろす顔の弧を描く口元と下がった眉尻で苦笑いを浮かべているのは分かった。
でも・・・・なんか久しぶりだ。
意識いっぱいで昼食に思い悩んで扉に手をかければ、どうやら逆に来訪した相手が思いっきり扉をあけて。
何の予測もしていなかった私は見事その反動で勢いよくその人に突っ込んだのだ。
「今日は・・・内向的な日ですか?雛華さん?」
「いや、俺基本身内以外じゃサングラス必須」
そう告げて今もグッとそれをかけ直す彼は久しぶりだ。
最近はその美点と言えるグリーンを見ることの方が多かったというのに、今目の前にいる彼はしっかりとその輝きを黒いガラスに覆い隠す。
そして今日は相変わらずな無造作ヘアでとてもラフな私服での来訪。
良かった・・・・通報されなくて。
社交性に富みない彼はこの会社に属してはいてもその身を置かない。
仕事も全て私を通じて自宅でこなすという異例中異例なのだ。
だからこそこの前の全体会議の様なスーツ姿での来訪であればその姿もまだ違和感なかったのかもしれないが、こうして私服で重役のエレベーターに乗り込み闊歩する姿は彼が社員だと認知されず通報されてもおかしくはない。
しかも・・・・サングラス。
「今日はどうされましたか?ご自分で出向かわれるほど仕事に疑問な点でも?」
言いながら状態を立て直しスーツの乱れを直して彼に再度視線を戻す。
よっぽどでないと彼があの家から出るのはないと理解しての投げかけで、でもどうやら的中したような彼のくもり顔。



