仕方ないと、溜め息を一つ吐き出すとうんうんと数回頷いて了承を示し彼を見つめる。
その反応に満足したらしい彼がようやく真面目だった表情にニッと笑みを浮かべて勝利に染まる。
「だんだん、【上司】としての【命令】より、【夫】としての【お願い】の方が効果上がってそうだね」
「この場合によりです。必ずしもそれが通用する程あなたはまだ【夫】の条件満たしているわけではありませんから」
ふいっと視線を外しての悪態に言い終わって冷静になる私は馬鹿なのか。
自分の放った言葉の棘の鋭さに投げた拍子に自分も被害者になる。
言い過ぎた。
どうして私は人を傷つける言い方しかできないのか。
そんな動揺に満ち逸らした視線をなかなか戻せず、目の前で無言で私を見つめている彼の気配に怯える。
いや、反応に・・か。
また・・・寂しそうに微笑むのか。
思い出しても少し胸が締め付けられる彼の姿。
「・・・・うん、・・・やっぱり順応」
「・・・はっ?」
思いがけない軽い調子の声音と理解できない言葉に視線を戻すと、懸念したような姿皆無の自分の顎をトントンと指先で小突きながら納得顔。
意味が分からないと眉根を寄せた私に対して逆ににっこりと微笑んだ彼が次の瞬間には私を引き寄せその腕に包み込む。
何故?
何の抱擁だ?と困惑で不動になり、それでも彼のスーツにファンデーションがつかないように自分の手を頬と彼の間に滑り込ませた。
「可愛い・・・」
「どうしましたか?とうとう頭のねじが全て飛びましたか?」
「もう、その悪態すら愛の告白に聞こえる」
「・・・・・・・」
「黙るのかよ、」
「喋るほどにあなたを喜ばせるだけだって理解したので、」
M具合も末期かと、本気で彼の脳内を心配して呆れて冷めた眼差しをむければ不満も見せずににっこり見下ろされる。
やっぱり・・・・末期?
私のS具合がよろしくなかったかと本気で反省も交えた懸念を働かせれば、ようやく彼の奇行が説明された。
「進歩・・・・お互いに夫婦として、」
「はっ?」
「だって・・・・千麻ちゃん、今本気で動揺して後悔してたでしょ?・・・自分の言った言葉に俺が傷ついたんじゃないか。って」
「・・・・・・・否めません」
「ははっ、正直。で・・・、この関係を始めたころの千麻ちゃんは結構簡単に俺を傷つける言葉を口にして、しかもその鋭さや俺の傷なんて振り返る事なく過ごしてたわけ」
「・・・・・」
「ね?・・・・そうやって俺を気遣うようになっただけ夫婦として進歩じゃない?」
ああ、まずい。
完敗の文字が浮かぶ。
だって・・・どんなに反論したくてもその場しのぎの軽い言い訳しか思いつかないもの。



