しばらく彼に身を預け不動になる。
収まりつかないと思っていた感情も、時間と一緒にゆるゆると落ちついていって。
頬の涙も落ち切り乾いた部分がピンと張るのを感じ始めた時にその胸を押し返した。
軽く押せば案外簡単に緩んだ腕にさすがに小さく羞恥心が疼く。
躊躇いながら顔を上げれば少し眉尻下げ、彼もどこか気まずさを見せた頬笑みで見降ろしてきた。
そして視線を泳がせゆっくりと下降した視線が私の指にハマったリングを捉え、小さく笑うと私の手ごとそれを持ちあげじっと見つめた。
「・・・・よかった」
「はっ?」
「サイズ。・・・朝見た時不安だったんだよね。注文したサイズより細く見えた指先に」
ああ、朝のあの言葉はこれにかかっていたのか。
思いだした朝の彼の『不安』。
あの時は意味が分からなかったけれど今こうして種明かし。
心配する事も無く綺麗に自分のサイズに収まった指輪に彼が満足そうに微笑むと、するり、指の間に自分の指を絡めキュッと握った。
「千麻ちゃん・・・」
「はい、」
「俺ね・・・確かにまだ完全に振っ切ったワケじゃないんだ」
「・・・でしょうね」
だって、彼女はあなたが初めて本当に想いを寄せた女性だったのですから。
そして、今まで見た事のない優しさで彼女と時間を過ごしていたのを私は見ていたのですから。
「でも、でもね・・・、俺、・・・・・好きでもない相手と結婚する程気違いじゃないよ」
「・・・・・」
「確かに・・・恋愛じゃないかもしれない。だって、俺が彼女に感じてた様なそれとはやっぱり違うからさ・・・」
言いながら絡んだ手に僅かに力を込める彼は、その感覚を確かめているのだろうか?
彼女に感じていた物とは違うと再確認?
それでも真面目な表情で言葉を弾く彼をただ黙って見つめ続きを待ってみる。
「でも・・・傍にいてほしい。・・・結婚してもいいくらい・・・千麻ちゃんの事信頼して安心して・・・好きだよ。・・・俺」
おかしい。
ここは・・・特別素敵な空間でもなく会社の小さな一角の給湯室。
そして今は勤務時間中だというのに私はもうすでに夫の肩書を持つ副社長にプロポーズされているような状況。
それも・・・酷く真剣に、まっすぐに言葉を向けてくる彼にどう反応するのが常識だろう。



