それに苦笑いで切り返した彼が立ち上がるとカウンターに両手をついてキッチン側の私に身を乗り出した。
「・・・名前はつけなくていい?」
首元押さえてのその問いには堪えず噴き出し、でも直ぐに持ち直した表情で真っ直ぐに見つめあげた。
「名前より強烈な見えない鎖繋いでますから」
言った直後に当然の様に呼吸を奪われそれに浸る。
『仕事に遅れます』と胸を押し返すのが私らしかった?
それでも感情受け入れれば私も一女でそれなりに嫉妬も独占欲も働く。
「浮気なんて許さないから、ダーリン」
呼吸する僅かな合間に滑りこませた牽制に彼の口元が弧を描く。
その一言を待っていたと。
そんな朝の記憶。
が、浮上して焦る。
「千麻ちゃん・・・」
微睡んで何処か寂しさ混じる甘えた様な声音。
こんな言い方で名前を呼ばれた事に激しく動揺する。
密着する身体やその重みにも。
私を逃さぬ様に見つめるグリーンアイにも。
「ちょっと・・・、ちょっと待ってくださ・・」
まだ残る冷静さでその胸を押し返して牽制。
相手の理性を引き出す様に不正解なこの現場打破に動いたのに、呆気なく阻止。
押し返した手首を掴まれ居た間に縫い付けられる。
ああ、この場所をこんな角度で捉えるのは初めてだと不思議な感覚も一瞬。
直後に更に強烈で新鮮で、本来得る事の無いはずな印象に息が止まった。
「・・・・・慰めて」
「っーーー」
名前を呼んで牽制するつもりだった唇はいとも簡単に塞がれた。
その瞬間を待ち構えて居た様に風が吹き抜け季節外れな音が耳に響く。
ちりん、ちりん・・・と、
癒すはずの音が警告音の様に。
「っ・・あっ・・・雛華さんっーーー」
響かせるには遅い牽制が無意味に空気に触れて散る。
私に今口付けたのはいつだって綺麗なグリーンアイ。
でも、
類似品。
そして・・・、彼の元恋人の現旦那様。
ああ、不誠実。
何でこんな事になったんだっけ?



