「なんだ・・・・聞こえてなかったのか」
「はっ?」
さっきから何を言って一人で百面相をしているのかこの男は。
非難するように視線で見上げても何だか上機嫌な笑みの彼には通じないらしい。
それどころか・・・・、
「・・・・何ですか?この手は」
「ん?イチャイチャしてたいの」
恥じらいもなく、まるで初デートの付き合いたてカップルのように対面したまま私の両手に自分の手を絡めた彼に呆れた眼差しを送る。
おかしい。
私の記憶の中でも彼はもう少し女性に大人な印象で接する人だったと思うのに。
「あの、・・・・離してください」
「嫌」
「動けません」
「俺から離れないでハニー」
「・・・・・心底ウザい」
「心底愛してる」
「・・・・・・・・・本気で精神科行きますか?」
「・・・・・・さすがに本気で不安そうにそれ言われると傷つくけど」
一瞬思考の後に本気で精神を心配するように顔を覗き込めば、さすがに笑顔曇らせ言葉も濁す。
どうやら別に気が狂ったわけではないと理解すると小さく息を吐いてから彼の手を振り切り白く狭いブースを抜けた。
手を振りほどいた瞬間に『あっ』と声を響かせた彼にクスリと笑い、そのまま関係なしにゲームセンターの入り口に向かいヒールを響かす。
独特の暗さと騒音に包まれていたそこからようやく一歩外に出れば清々しい晴天と少し肌寒い外気に目を細め、グッと背伸びするように腕を伸ばすと視界に彼のバイクを捉えて近づいていく。
そしてそのバイクに跨りふぅっと一息。
ゆっくりと視線動かし今ほど身を置いていたゲームセンターを見つめてやっと現実的になってきた頭。
まるで夢のような非現実的だった。
ついさっきの事なのに。
【さっきの事】に含まれる事態を思い出して同時に反芻、そして自分の唇に触れて視線を泳がした。
『好き』・・・かぁ。
頭では何となく理解していた自分の感情を言葉としても響かせてみれば、なんだか自分で自分を後押ししたように意識して。
そうか、私は彼が好きなんだ。と変に納得し脱力。
バイクのメーター部に身を預けるように突っ伏しゲームセンターを見つめる。
しばらくそうして見つめていて、それでもまったく姿を現さない彼にさすがに懸念。
そしてようやく体を起こし跨っていたバイクから降りると今ほど歩いた部分を後戻り。
まさか手を振りほどいた事にいじけているんじゃないわよね?



