でも彼女達にはいい薬かと余計な口は挟まず、目の前で嬉々として彼女らを苛める彼を傍観してしまった。
だけども思わぬ火の粉。
腕を組んで客観的にその場にいた私に不意に移ったグリーンアイが意地悪に笑む。
絡んだ瞬間に嫌な予感がし、それでも今この状況で私がその矛先になる理由が分からないと眉根を寄せると。
スッと彼女たちから抜け私の前に立った姿。
何でしょうか?
そんな風に怯むでもなく腕を組んだまま見上げると、ニッと微笑んだ彼がおもむろに私を背後の壁に押しつけ奇行に走った。
頬が触れる。
息がかかる。
またか・・・。
冷静に与えられた感触にそんな感想が浮かび、きっと背後から見ている彼女達からは唇へのそれに見えているのだろうと思った。
ああ、それすらもこの男の狙いか。
押し付けられようと姿勢を崩すでもなく腕を組んで目蓋も閉じずにそれを受け入れて、彼もそれを分かっていたように悪戯なグリーンアイを細め私を見つめる。
きっと口の端が上がっているから腹が立つ。
そして離れた瞬間にそれは見事的中し、弧を描いた唇が私のさっきの言動に不満を告げた。
「愛はいらないなんて・・・薄情だねハニー」
「取ってつけた様な愛は押し売り以外の何物でもありません」
「そう?俺はこれでも昨夜慎ましやかな胸の体に男として興奮したけどなぁ」
「副社長、セクハラです」
「だから・・・・」
常套句。
はっきりとセクハラ発言をセクハラだと言いきれば、それを待っていたかのようにニッと口の端を上げた彼が、私の手をグッと引くと指先に触れた。
そしてそのまま付け根に滑る。
さすがの違和感に不覚にも目を見開いてしまった。
そして勝ち誇った様な頬笑みに悔しさが募る。
「もう、千麻ちゃんは秘書である前に俺の奥さんだから」
「なんて嘆かわしい・・・・」
「一瞬でも外したら・・・減俸するよ?」
「それは公私混同と言うのですよ」
示す様にトンッと指先で私の指の付け根に収まったそれを小突く。
まるで邪魔物でもつけられたかのように目を細め眉根を寄せながらそれを見つめると、彼がクスクスと嬉しそうに笑う。
左手の薬指。
ああ、ここばかりは気楽でいようと思っていたのに繋がれた。
シルバーのリングに小さな石が3つ程埋められたシンプルな物。
2つはダイヤだろうか?
一つだけその色をガラリと変えて、どこかで見た様なその色は彼のグリーンに類似する。
そうか・・・独占欲。
首筋の紅い印となんら変わりがない意味だろう。



