挑むように腕を組んで私に対峙していた彼の双眸が一瞬大きく開いて、それでも何事もなかったかのように元の大きさに戻っていった。
こんなに騒音に満ちているのに・・・・心音が一番近くで大きく響く。
久しく口にしていなかった【契約】の言葉が両刃の剣のようだと感じた。
痛みより先に感じる熱さ。
切りつけた瞬間はその熱に麻痺して、じわじわと痛みが後を追って広がってくる。
それでも微塵も痛くないと気丈に彼を見つめあげると、一瞬の驚きの後動揺見せなかった彼がゆっくり息を吐き出し視線を落とした。
「・・・・・・・つまり・・・、無駄なわけだ」
「・・・・・はい、」
「・・・・・・千麻ちゃんの笑顔を少しでも見たいって思う俺の気持ちも」
「・・・はい、」
「喜ばせようとしてきた事も、・・・・昨日の誕生日のサプライズも・・・・・ウサギも」
「・・・・・・」
「楽しかった記憶全部、さっきのゲームみたく簡単に撃ち壊してしまいたいくらいに」
「・・・・・・・・」
彼の言葉も・・・両刃の剣だ。
言葉を重ねるごとに強気に見せていた顔が悲痛に変わっていることに彼は気が付いているのだろうか?
おかしい。
私は・・・・彼を癒すためにこの関係を始めた筈なのに。
「・・・・・全部・・・・・・不必要で無駄」
更なる痛みを重ねたのは私の言葉。
今までのすべてを否定して無意味だと響かせれば彼の表情から悲哀ですら消えてしまった。
無表情。
完全に彼を傷つけ、そして同じ傷を自分にも感じる。
そして落胆?
もう本当に諦めて私に執着しないでほしい。
私の心でさえ乱すような甘い行為や時間は必要ない。
あなたの特別になりたくないわけじゃない。
でも・・・今の私には甘さより不安が上回る。
「・・・・・・・わかった」
不意に静かに響いた彼の声音に落としていた視線を戻した。
映る姿はさっきの無表情の真顔。
そしていつだってまっすぐに向いていたグリーンアイは今は外され私を映さない。
瞬間的に動揺が走ったけれど、それが正しい事なのだとすぐに冷静な自分が言い聞かせ宥めていく。
「じゃあ、・・・その条件で・・契約・・・続行で」
殺伐と、
特別なんてなりえない日々で・・・・残りを終えましょう。
お互いに一致したと含みを混ぜて言葉にすると話は終わりだと背中を向けた。
そして気がつく。
物悲しくもこれが正解な立ち位置だと。
私が前で彼が後ろ。
隣り合って歩く時間が異例なのだと。



