何の気なしに窓の外に視線走らせた時に、背後から響いたコップの倒れる音とさっきの母親の『きゃっ』という小さな悲鳴。
振り返れば母親と対面して座っていた4,5歳ほどの子供が派手にオレンジジュースをテーブルに広げてしまった状況で。
母親が慌てて鞄の中を片手で漁って何か探して、なのに片手でなのか目的のものを見つけられないらしい。
そんな母親の焦る気持ちも知らずに身をよじる腕の中の赤ん坊。
さすがに見かねて手を伸ばすと声をかけた。
「抱いてますよ」
「あっ・・でも、」
「お気になさらず」
遠慮して躊躇う姿にさらに手を近づけると、母親の遠慮なんて知らないとばかりに赤ちゃんの方からその手を伸ばし、私の袖をつかむとグイッと引っ張った。
さすがにその瞬間に母親の遠慮も消えて、申し訳なさそうに私にその子を預けてくる。
そっとやさしく抱き取り席を立つと、思ったよりずしりとくる子供の重みを感じながらその顔を覗き込んだ。
くりっとした黒目が不思議そうに私を見つめて、私も負けじとじっと見つめると不意にニカっと笑ったその子に無意識に微笑んでしまった。
何が楽しいのかにこにこしながら私の顔に触ったり髪を悪戯する姿に多分完全に破顔していたのだと思う。
あやすように唇を動かしたり体を揺すったりして愛らしい姿に完全に浸りながら不意に走らせた視線。
直後に変な動機で痛いくらいに心臓が跳ねた。
いつの間にか席に戻って今の一部始終をどうやら物見でもするようににこにこと微笑んで見上げコーヒーを飲んでいた彼。
そして当然な意地悪。
「いつの間に俺との可愛い子供産んでくれたのハニー?」
「っ・・・馬鹿な事を・・・・」
「いいねぇ、早め目に2人目も作っておこうか」
「すみません。朝に不健全だし教育上よろしくないので排除していいですか?存在すべて」
黙れ!ときつく睨めばクスリと笑った彼が立ち上がって私に近づく。
そして腕の中にいる赤ちゃんに手を伸ばすと、私に向けていたのとは異なる柔らかな笑みを浮かべて自分の胸に抱き上げた。
「怖いママですね~、パパにも笑って~って言ってあげてよ」
「すみません、他所様の子にバカが移ると困るので返してください」
「えっ?うんうん、弟か妹がほしいって?・・・だってさ、ママ」
「10%の分際で何をほざいてるんですか?」
「口悪いなぁ。教育に悪いよママ?」
「あなただけには言われたくない一言ですね」
「あ、なんかいい未来体験~。良くない?子供挟んでのこの会話」
「はい、間違ってもあなたに子供は抱かせたくないと勉強になりました。子供は私一人で育てますのでご安心を」
「・・・フフッ」
腕を組んで心底あきれて見放したように言い放ったのに、その瞬間におかしそうに笑った彼に怪訝を向ける。



