視線が絡んだ相手は知人ではない。
まったく見知らぬ人。
それでも次の瞬間には思わず口の端をあげてしまうような愛らしい姿。
くりっと大きな目で私の髪を遊ぶ1歳にも満たなそうな赤ちゃんで、私の背後の席に座っている母親に抱かれていた姿が肩から身を乗り出して髪の毛に興味を示したらしい。
私が振り返った気配で気が付いたのか、母親らしき若い女性が慌てて「すみません」と言い小さな手から私の髪を離していく。
それに小さく「いえ、」と返すと再度大きな目を見つめてから視線を前に戻していった。
直後、
絡んだのは含みありの嫌味なグリーンアイの微笑み。
『げっ』と思わず心でつぶやいてしまった程。
今の過程を頬杖つきながら静かに眺めていたらしい彼が視線が絡んだ瞬間ににっこりと微笑んで、あえてそれを無視してコーヒーを口に運ぶと今度は小さく笑い声が響く。
それにムッとしつつも反論したら負けな気がして口を閉ざした。
もちろん・・・・彼が逃がすはずもなく。
「さすがの千麻ちゃんも赤ちゃんには柔和なんだぁ。いいなぁ、俺にもあんな風に表情柔らかくいてくれればいいのに」
「・・・・・大丈夫です。いつでも同じように感じてます」
「えっ、愛らしいとか思ってくれてるの?」
「私にはいつでもその背中にランドセルが・・・」
「・・・・・小学生並の精神年齢だとでも?」
「ああ、さすがにそれは失礼でしたね」
「うん、酷いよ」
「小学生に・・・・」
「・・・・・・うん、もうさ、少年の心だっていい風に解釈しとく」
「はい、その方があなたには幸せかと」
精神レベルが低すぎると嫌味で返せば苦笑いで彼が誤魔化しカップを口に運んですぐに離した。
そしてすっと立ち上がる姿を見上げれば、説明のようにカップの空を示して傾ける。
「注文・・・してきます。千麻ちゃんは何かいる?」
「・・・いえ、私はまだ入ってますから」
「じゃあ俺だけ買ってくるね~」
そう言って財布片手にカウンターに向かう背中を見送って、すぐに忘れつつあったメロンパンの山に手を伸ばし思わず笑った。
これは嫌でも記憶に残る強烈な印象だと。
すでにその味は口内に記憶されていて、想像通りの甘みを再度口の中に広げていく。
口の端についたグラニュー糖を指先で取り除き、ヘーゼルナッツの香り立つコーヒーで甘みを流し込んだ。



