「デートってさ、相手のリサーチ時間でもある気がするんだよ。俺的には」
「・・・・まぁ、納得です」
「室内やいつもとは違う状況で開放的になった瞬間にいつもより自分を曝け出す場面が見え隠れして。相手をまた深く知ったって浮れるじゃない」
「浮れるかは知りませんが、理屈はわかります」
「俺は少なくとも浮れてるんですよ。会社や家では知ることが出来なかった千麻ちゃんの趣味や好みを知って」
「・・・・」
「バイクが大好きなスピード狂で、ヘーゼルナッツのフレーバーコーヒーが大好きっていう千麻ちゃんをね」
「・・・・・重要ですか?生活上まずそんなにバイクを使用しないですし、毎日フレーバーコーヒーを飲むわけでもない。私の微々たる趣向のほんの一角です」
知ったところで無意味で無駄だと呆れて見せたのに、彼ときたらそんな言葉に堪えない。
むしろニッと微笑み強め口角の上がった唇が得意げな声を響かせた。
「そんな微々たる部分までさりげなく知ってるのが夫婦じゃない。
俺はね、ひとつでも多く千麻ちゃんと夫婦らしいことがしたいんですよ」
トンと彼の指先が私の左手の指輪を弾いて無邪気に笑う。
だからこそ些細な発見でも重要なのだと、小さく発見した新たな私にもいちいち歓喜して見せて。
きっと呆れたと表情を歪めても、あなたは嬉しそうに微笑むんでしょうね。
そして気がつく。
最初の頃には躊躇いなく彼の気持ちなんてお構いなしに口にできた言葉が言いにくくなっていると。
【1年契約】
この結婚は1年の約束で成り立っているのだと。
言ったら・・・・一瞬で今浮かべてる笑顔は消えてしまうんでしょうとも・・・。
だからあえて口は閉ざす。
楽しいと感じる時間に水を差さぬように。
私を楽しませることに馬鹿みたいに必死なこの人の笑顔を今日くらいは曇らせないように。
「・・・・・バニラ、」
「うん?」
「バニラのフレーバーコーヒーも・・・結構好きです」
「・・・フフッ、記憶しておく」
嬉しそうに笑っちゃって。
知ったところで何がどうなる物でもないのに。
そう思う癖に・・・、小さく喜んでいる自分に小さく呆れて小さく危惧。
許容範囲を超えそうな彼への好感は危険だとすぐにコーヒーでそれを飲み込むように掻き消した。
そんなタイミング。
背後からツンツンと軽く引っ張られる髪の感覚に視線を移す。
誰か知り合いでもいたのだろうかと怪訝な表情で振り向いたのに、視線が絡んだ瞬間に寄っていた眉根が解消される。



