気がつけば穏やかで心地よいと言える【夫婦生活】は、始まりこそ仕事だと言い聞かせてのがちがちなものだったのに今はこうしてそれらしく感じる瞬間あるほど。
お互いの私生活のペースも掴み始め衝突することなく過ぎていく日々。
同じものを口にする瞬間。
たった一つのメロンパンで自分たちの距離感狭まった事に気がつかされた。
そして食べかけのメロンパンを再度彼の口元に持っていけば当然のように噛り付いてニッと笑う。
この笑顔は会社では知らない。
上司としては知らない。
不思議な物だとコーヒーを口に運びながらパンの甘味を掻き消していくと、不意に伸びてきた彼の手が私の口元からカップを引き離した。
「一口頂戴」
「・・・・どうぞ」
味見~。とにこやかに私のカップを口に運んだ彼が、テイスティングでもするように含んだ味に集中する。
どこでもない空中に視線泳がせ、最後にクンッと中身の匂いを確かめると納得したように私にカップを戻してきた。
「香りが甘いから味もかと思った」
「フレーバーですから香りだけですよ」
「うん・・・俺も結構これ好き。千麻ちゃんの好きな物リストに加えておこう~」
「・・・・そんな物あったんですか」
「一応?でもあんまり自分の事語らないから数える程度だけど」
そう言って指折り数えて苦笑い。
確かに私は自分の事を進んで語ってはいないなぁ。と納得はするけれど反省はない。
隠すことはないけれどすべてを語って自分を理解してほしいとも思わないから。
だから彼の好きな物をあえて聞いたこともない。
でも今日だけで私もすでに新しく追加。
彼はバイクが好き。
ヘーゼルナッツのフレーバーも好き。
頭のメモ帳に自然と追加されたその項目。
そんなタイミングにクスリと笑った彼に視線を移した。
「思い出し笑いですか?」
「うん?いや、なんか嬉しくて」
「・・・・いつもと変わらない夫婦漫才ですよ?」
「でも・・・いつもと違う状況だから新しい千麻ちゃんの発見があった」
「・・・・・・」
満足そうに、得意げに微笑んだ彼が一呼吸置くようにコーヒーを口にした。
光の反射で伏せた睫も茶色に見える。
どこまでも綺麗な造りだと感心して見つめていれば、その声音でさえも耳触りのいい音の集まりだと思ってしまうほど。



