でも何が嬉しいのだろう?
普通なら男として意識されて照れながらの方が嬉しいのではないか?
そんな疑問でメロンパンを見つめて答えを探していると、その必要はないというように返される彼の答え。
「意識するのは恋人まで。夫婦ってなんかさらりとそれをやってのける【あたり前】感がいいと・・・俺は思うのですよ」
「なるほど。でもその原理で行くと私たちに【意識】という期間が抜けていると思われませんか?」
「俺はそれなりに結婚してからしてますよ~?」
「・・・・・すみません、皆無でした」
「うん、知ってる。初夜に元カレの服着てあっさり裸体晒した千麻ちゃんだし」
「・・・・根に持ってますね」
「一生忘れない。一夜を共にする女の子にあんな嫌がらせを受けたのは初めてだし」
そう言って苦々しい記憶の浮上に『面白くない』と眉を顰めた彼がコーヒーでそれを飲み込んでいく。
別に嫌がらせでもなかったのだけど。と内心で思いながら自分もコーヒーを口にして、フッと香ったフレーバーに思わず口の端を上げた。
そしてそれを見逃さなかったグリーンアイがようやく不機嫌解消して柔らかく笑う。
「それ・・・」
「はい?」
「メニューで見つけて嬉しそうだったけど・・・好きなの?」
「嫌いなものは注文しませんが」
「もう、なんで素直に【好き】の一言が言えないかなぁ」
「・・・・・対象があなたでなくても【好き】と口にしたくないからでしょうか」
「・・・・・千麻ちゃん・・・酷い」
「・・・・・冗談です。・・・半分」
「半分は本気なんだ。・・・そんなに俺を前に【好き】って言葉響かせたくないと・・・・」
「・・・・話が逸れてるのでその微々たる問題は後回しで、」
「微々たる・・・・」
重苦しいこれ見よがしな溜め息が響く。
そして傷ついた。の視線にこちらも呆れ交じりの溜め息をついた。
【好き】だの【嫌い】だの、高校生カップルじゃあるまいし。
それこそ夫婦は簡単に口にしないと思うのに。
それでも、『確かに』と思う部分もある。
手の中の甘い香り立つコーヒーを見つめ、スッと彼に視線を移して不貞腐れているグリーンアイと絡めてまっすぐに見つめた。
「・・・・・素直・・か、」
「千麻ちゃん?」
あっ、光の加減でいつもよりグリーンが明るく映る。
横からの光で左右のグリーンがグラデーションのように色味を変えるのが綺麗だと感じた。
そしてその緑に見とれながら動いた唇。
「・・・・・・・好きですよ・・・」
「・・・・っ・・・・千麻ちゃん・・・・」
グリーンアイが驚愕で揺れて小さく歓喜も見え隠れする。
それに口の端を気づかない程小さく上げると、
「このフレーバー」
「・・・・・・・・うん、何となくこの落ちも予想してた」
「ナイス夫婦漫才じゃないですか。本望でしょう?夫婦らしく思考が読めて」
軽く落胆した苦笑いを浮かべて私を見つめる彼に、嫌味にも【夫婦】を使っての切り返し。
だって、一瞬垣間見たあなたの歓喜にSな感情が浮上したんだもの。
あなたをそう簡単に【好き】なんて言わない。
軽はずみに言うはずない。
でも・・・、
嫌いじゃないのよ?
ダーリン。



