さすがにあからさまに振り向いたりはしなかったけれど、気配やさっき捉えた姿で分かる。
多分大学生くらいのカップル?
とりあえず男女の2人が背後でパンを選んでいたのを知っている。
その2人。
店内にはBGMや他の物音も満載だというのに、こういう時の悪態が一番大きく響くのが困る。
そして言っている方は大抵その他の音に自分たちの会話なんて聞かれていないと思っているんだ。
それか、わざと聞こえるように言っている性格の悪さか。
『俺、ああいうキツイ女無理』
別にあなたに好かれたいとも思わない。
『ねぇ、もっと照れるにしても言い方ありそうなのに』
別に照れていないし、余計なお世話。
『普通【気持ち悪い】とか相手に言うか?今一緒にいるくせに』
・・・・。
『あそこまで言われたら男の方も立場ないじゃんねぇ。プライドも見場もガタガタ~。相手を立てられないんて女として失格?』
・・っ!!
失格!?
あ、ヤバい・・・、なんかちょっと珍しくまともに切り付けられた気がする。
いつもならこういった悪態は気にもしない。
だいたいが推測や憶測による的外れな言葉だから。
だけども今回は少し違う。
一般論と外見。
私個人の見場やプライドの事ならいくらでも落ちた捉え方でも気にならないけれど、・・・・・・彼の印象を落としているような自分の対応はよろしくない。
上司の見場や立場を落とすなんて秘書失格・・・・妻失格・・・だ。
「ーーゃん、」
何か・・・ショック、
「ちーーゃん、」
えっ?でも今更どう接すれば・・・、
「千麻ちゃぁん?」
いつの間にか思考にふけっていた自分。
目の前に並ぶパンも視界に入らず自分以外の存在を忘れていた。
そして意識を引き戻しにかかったのは不意にトングを持つ手に絡み付いてきた彼の手によって。
そしてまともに入り込んだ彼の私を呼ぶ声。
フッと視線を彼に移し見上げると、困ったように微笑むグリーンアイと視線が絡んだ。
「・・・・・・甘い物は大好きだけど、」
「・・・はい?」
「さすがにメロンパンだけそんなに何個も食べれないんだけどな?」
「はっ?・・・・っぅあっ・・・・」
言われた言葉に怪訝な表情で視線をトレーに戻していけば、いつの間にか山盛りに重なったメロンパンの黄色に変な声が出た。
そして彼が掴んだ手の先のトングには更に一つそれが掴まれている。



