「本当に驚かされるよ」
クスリと笑いながら私にメットを渡して自分はバイクにまたがって座る。
受け取ったそれを装着すると後ろに同じように跨って、重みでバイクが軽く沈み、そのタイミング図ったように彼が振り返りながらメットを被った。
「じゃあ、行くね」
そう告げて前を向く彼の腹部に腕を回す。
バイクでは何の意味もない密着の瞬間で、私もさして意識せずに腕を回し背中に張り付くように身を寄せた。
そしてふわりと走り出し受ける風が久しいものだと心が弾む。
バイク独特のエンジンの振動と臨場感。
体のバランスに記憶した物が蘇って純粋に楽しいと感じる。
流れる景色を眺め縫って横を走り抜ける車の運転手は大抵がスーツ姿の出勤ラッシュ。
バイクの利点。
多少の混雑はある程度抜けられるという事。
いつもならこのスーツの中に埋もれている筈の時間、私服で車ではなくアクティブなバイクで自由のみの時間。
少し優越感。
面倒だと思っていた時間だけどもこうして始めてみれば予想に反して楽しくて・・・。
あっ・・・浮かれそう。
気がつけば自然と口の端が上がっていて、だけども意識して下げようともせずにその瞬間に感じたままに力を抜いた。
私達はもっと殺伐とした関係であったはず。
そう意識して悩んだ感情すら体を抜ける風と速さに流されて飛んだ。
「・・・久々に血が騒ぎました」
「・・・メット外した直後から恍惚とした目で族っぽい事匂わせないで」
目的のパン屋の店前。
偽物である髪に気を使いながらメットを外すと興奮冷めやらぬ胸の内をぼそりと響かせる。
私の手からメットを抜きとった彼が苦笑いで私の頭に手を伸ばすと乱れた部分に手櫛を通してくれる。
「朝食済んだら海沿いの道走りませんか?今日は天気もいいし、あそこならもう少しスピード出せるし」
「ははっ、珍しい〜。よっぽど楽しかったんだねぇ。千麻ちゃんから積極的に提案なんてまずしないのに」
「快感すぎて昇天寸前でした。もっともっと感じてたかったくらい」
「なんか言い回しにゾクゾクくるね。そんなに快感?」
明らかなるセクハラ発言だ。
でももう『セクハラです』なんて言葉にも恍惚としそうな彼にこの言葉は意味は成さない。
だからこそニッと口の端を上げると、
「快感すぎて・・・他のそれが霞むほど」
「っ・・・酷っ、ってか結構傷つくんですけど」
「一体何のことでしょうか?」
「策士!!絶対含み理解するってわかって口にしたくせに!!」
当たり前でしょ?
ショック受ける言葉をわざわざ選んで口にしたんだから。



