息を殺すようにソファーに横たわって1分もたっていない筈。
それでも長く感じる間の後にようやく彼の気配が動き出したのを背もたれの向こうで感じた。
そしてそれこそウサギのようにその耳を澄ませて彼の動きを把握する。
呆れて逆に不機嫌だろうか?
部屋に戻る?
ああ、今日のデートもお流れだろうか?
色々な思考を一気に巡らせていれば、予想外にもその気配はキッチンに入り込んだと理解した。
何やら瓶の蓋を開ける音や水を流す音がする。
まさか朝食でも作っているのかと、気が付けば目蓋を開けての音だけの模索。
でもすぐにその詳細は理解した。
用意されているらしい何かの食器の陶器音。
そして何か蒸気めいた音が響いて同時に香ばしいコーヒーの匂い。
エスプレッソ?カプチーノだろうか?
珍しく使用されたらしい機能に疑問を感じ、更に耳を澄ませながら何をしているのか探ってしまう。
時々彼の声が『あっ、』とか『やべっ』とか何やら不安感じる響きを放つのに眉根を寄せて数分。
ようやくトレーにかちゃりとカップが置かれるような音が響き、咄嗟にきつく目蓋を閉じると顔を埋めた。
近づく彼の足音に妙な緊張感を感じながら成行きを待つ。
そしてソファーに横向きにその身を置く私の前で彼がしゃがんだ気配と微々たる風を感じた。
そして嗅覚くすぐるコーヒーの匂い。
「・・・・・・朝から・・・魔法使ってみました」
なんだそれ。
心でかるくそう突っ込んで隠れている口元を軽くゆがませる。
そして躊躇いながらも目蓋を開け、僅かにその手をずらし目の前の光景を捉えた。
彼よりも早く捉えた彼の示した【魔法】。
まぁ、彼がそうなるように私の視界にそれを差し出してきたのだけども・・・・・・卑怯ね。
さすがにもう張れない意地に表情を構築していた感情が緩んで、力なく眉尻下げると彼を見つめてみる。
苦笑いで微笑む彼を。
「・・・・・未熟な魔法ですね」
「・・・俺的には・・・高得点な出来なんだけど?」
そう言って自慢げにニッと笑った彼とその手の中の物を見比べてわざとらしい間をあける。



