意味不明で完全に酔っ払っているのかと思った。
でもどうやらそうでもないらしい彼が電話先でクスリと笑う。
まるで今の私の驚きを理解しているかのように。
『ちょっと、ベランダに出てよ。今から千麻ちゃんの為に花火を打ち上げてあげるから』
「何をふざけたことを・・・、打ち上げ花火には色々と許可や申請が必要な事くらい私だって知ってますよ?」
『いいから・・・、騙されたと思って出てよ・・・』
どこか悪戯な雰囲気感じさせる言葉に思わず心が便乗してソファーから立ち上がるとベランダに向かった。
窓を開ければ夜風が入り込んでウィッグの髪をふわりと遊ぶ。
少し肌寒くなってきた季節の風。
そろそろ外で飲むには熱燗もいいかもしれないと思いながら手すりに寄って外を眺めた。
見慣れた高層マンションからの夜景。
今のところ花火なんて上がっていないし、もしあげるならあの河川敷のあたりだろう。と見つめてみても変化はない。
やはり何かの冗談かと耳に当てていた携帯に呆れ声で現状報告。
「何の冗談?ダーリン」
『ごめん、失敗失敗。さすがに大技すぎました。だから・・・それは後回しでいい?』
「後回し?・・・ほかにも手品を?」
『今度は・・・簡単な手品から。・・・そうだ・・・バラの花でも出してみようか?』
呆れてクスリと笑うと息を吐く、何がしたいのか・・・でも少し楽しいと心が沸いて、その感情に素直に言葉を返した。
「バラ?」
『うん、100万本のバラなんてどう?』
「それは・・・出せたらすごいですね」
『喜んでくれる?』
「出せたら・・・ね」
『じゃあ・・・今度は失敗しない。玄関を開けたら・・・驚くよ』
つまり・・・玄関に行けという事ね。
そう理解すると寄りかかっていた手すりを離れてゆっくりと玄関に歩き出す。
きっと、100万本は大げさ。
扉を開ければ100万本には達しないけれどバラの花でも抱えた彼が立っているのだろうと予測。
ドヤ顔で。
だから言ってやろう『バラは私の柄じゃない』と。
自分でも答えを用意して軽く口元に勝機の笑みを浮かべて鍵を開ける。
そして浮かんでいた笑みをすぐに消し、無表情で扉を開けて彼を捉えた。
・・・・つもりが。
ああ、
確かに驚いたわ。
そして予想外。
彼もいなければバラもない。
でも見落としそうな程ぽつんと静かに存在するそれに視線を落とした。



