Side 千麻
「・・・・気持ち悪い・・・」
力なく胃に感じる不快感を口に出すと、よろりと立ち上がってキッチンの冷蔵庫を開けた。
視線を走らせ目的の炭酸水を取り出すとグラスに開けてそれを煽る。
喉をしゅわしゅわと刺激して流れ込む感覚に爽快。
若干胃もたれを緩和するそれを手にリビングに戻ると、残り3つほどになったマカロンの箱の蓋を閉めた。
胃もたれの元凶。
いや、マカロンは悪くない。
悪いのは馬鹿みたいに口に突っ込んだ私の方。
嬉々として開封して口に放り込めばその甘さに歓喜し、つい2個目を頬張って後を引かれ、3つ4つと口にして現状後悔したってだけの話。
美味しかった。
高級と名が付くほどに美味しかった。
でも・・・しばらくはいいかもしれない。
今は何よりも自分に必要なのは手にある炭酸水だと、再び口に運んでごくりと飲み込む。
そして何の気なしに時計に視線走らせ軽く眉根を寄せる。
「・・・・22時23分・・・・」
時計の時刻を丁寧に読み上げ音声でも確認。
そして溜め息をつくと放置されている携帯を見つめて一瞬手を伸ばしかけ、そして引っ込める。
その内・・・・帰ってくるわよ。
柄にもなくアホらしいと炭酸水を煽る。
そしてテーブルの上のマカロンの箱を見つめて深く溜め息。
「・・・・29歳・・か」
もう自分の誕生日に沸くような数字じゃなくなっている事実。
『おめでとう』が嫌味にも聞こえそうな誕生日という日を、夫となった彼にも告げずにさらりと終えようとしている。
それも現状1人。
特別楽しい記憶もなく静かに幕引く1日に、パートナーがいようといなかろうと私にとっては特別な日にはなりえないのだと納得してソファーにどさりと倒れこんだ。
意味なく白い天井を見上げる。
この家で迎える初めての誕生日。
そして・・・・多分、最後の・・・・。
そう思ってすぐに自分の濁した思考に思わず苦笑い。
【多分】なんて・・・、契約に反した感情だ。
まるで今後も訪れるようなことを淡く期待しているような。
馬鹿馬鹿しい・・・、この夫婦関係は1年契約だと結んだのは私の癖に。
自分のどこか危なく揺らぎ始めた条件に、面倒だと蓋をするように顔を腕で覆った。
暗くなる視界と無音。
いや、生活的な音は耳に入る。
冷蔵庫のモーター音とか、さっきまで見ていたパソコンの音とか。



