マナー違反?
上等だしどうでもいい。
こんな後始末くらいは父さんがすればいい。
そう思った瞬間にあのひどく愉快気な父の笑みを思い出して舌打ちを響かせる。
だからあの時驚き、そして呆れて笑ったんだ。
自分の奥さんの誕生日すら把握してない俺の抜けてる部分を。
そしてあえてそれを隠してここまで引っ張ってきた意地の悪さ。
いつ俺が気が付いて行動するのかを今か今かと楽しみにしてたんだ。
スーツ姿でにぎわう夜の町中を抜ける。
本当はすぐにでも家にタクシーで急ごうかとも思ったのに、誕生日という響きに足止め食らう。
ああ、くっそ。
もうほとんどが閉店間際だ。
ぐるりと定まらない目的と、そんな意思に無関心で無情にも閉店準備始まる店舗。
誕生日にまさかの手ぶらで帰りたくないと思うのに、何を求めたいのかが分からずに混乱する。
何を持って帰れば埋め合わせるほど彼女が喜んでくれるのか、単純なお詫びの品じゃなく、誕生日のそれとして本当に喜んでほしい。
なのに・・・どんなものに彼女が歓喜するかもわからない。
そうして迷っている間にも時計の針は時刻を刻む。
さっきは恐ろしく長かった1分が今は一秒に値する程早く感じて。
そして時間に追われた頭でさっきから復唱する。
『彼女の好きな物、好きな物・・、好きな物・・・』
何かないか?と眉根を寄せて目蓋を下し、それでも浮上しないそれに苛立つと近くのショウウィンドウに手を着き息を吐いた。
俺・・・・本当に千麻ちゃんの事わかってない。
情けない。
自分の不甲斐なさに心底落胆し、腕時計の時刻を見て更に落胆。
この辺の店舗はせいぜい21時まで。
現時刻20時50分。
10分で・・・彼女を喜ばせるものなんて見つけられない。
最悪の・・・・記念日・・・。
もうあがいても無駄だと諦め何の気なしに視線を横のショウウィンドウに走らせる。
多分雑貨屋なのか、店内に陳列された商品がこうして外を歩く人の目も引くように並んでいる。
ありきたりのおしゃれな日常雑貨。
さすがにこの程度の物じゃそこまで彼女の感情揺らすことはないだろうと、並ぶ品にさして興味示さず視線を動かし不意に視線が絡む。
展示された鏡に映る自分と。
しばらくの不動。
自分との視線合わせで見飽きるほど知っている自分のグリーンアイを確かめるように見つめた。
「・・・・・あっ、」
思わず声が漏れる。
そして心がざわめいて沸き立つ。
焦燥感感じながら携帯を取り出し時間との戦い。
ねぇ、10分で・・・・奇跡を起こしたいと心底思うよ。
残り数時間の誕生日に千麻ちゃんに笑ってもらいたくて。



