『あの・・・』
響いた声に一瞬全ての静止。
でもすぐに心で大きく溜め息をついて振り返る前に不愉快な表情にゆっくり作り上げた笑みを被せる。
そしてその身を立ち上げながら声をかけてきた姿に対峙した。
「驚きました・・・、何かご用でしょうか?」
「いえ、急に出て行かれたので体調でも悪いのかと・・・」
「ああ、ご心配いただいたのですね。ありがとうございます。・・・・少し酔い覚ましをしていただけですので、どうぞお食事にお戻りください」
暗に必要ないから部屋に戻れ!と促したのに、何をどういい方に取ったのか、スッと近づいた彼女が困ったように微笑んで見上げる。
決して彼女はその容姿が悪いわけではない。
むしろ美人に値する姿なのだと思う。
育ちも良くて品がある。
それを全て自認している彼女がそれを武器として命一杯に使用し俺に迫っている現状。
きっと今までそれをして思うようにならなかったことなんてないのだろうと推測。
まぁ、娘の為にこんな無茶苦茶な会食をセッティングする父親だし、娘に甘いのはよぉくわかった。
そしてきっと、俺もまたあなたの望むままにそのご自慢の姿の前にひれ伏すとでも思っているのだろう?
浅はかな・・・・女。
「私も・・・・少しおつきあいしても?」
「・・・・酔われましたか?」
「・・・・・つい、楽しくて、飲みすぎてしまいました。あなたにお会いするのが楽しみでしたの・・・」
「それは・・・光栄です」
駆け引き匂う言葉。
色めいた感情を含ませてのセリフに気が付かないようににっこりと微笑んで視線を腕時計に走らせた。
これは嫌味。
彼女ではなく時間が気になるというような。
その瞬間の彼女の期待外れな表情の動揺感じ、心底心で満足し笑む。
だけども、さすがさすが。
非常識な行動起こしたお嬢様はそう簡単にその身を引かず、結果駆け引きは無駄だと理解したのか俺の腕にその指先で触れてくる。
その仕草にゆっくり視線を絡めて見つめれば、自分の中の最大の武器なのか、妖艶さ孕む微笑みで俺を見上げる。
「お聞きしても?」
「何でしょうか?」
「・・・奥様・・・元秘書だとか、」
「現在も秘書継続です」
「つまり・・・公私ともに常にご一緒だという事ですね」
「ええ、朝から・・・・夜ベッドに入る時まで【常に】です」
小さく先手。
ただ【夜】と言えばいいだけのところに含みありの【ベッド】を付け足しての牽制。
当然僅かばかりの彼女の苦笑い。
でもすぐに無かったことのように言葉を続けるのは度胸があるのか馬鹿なのか・・・。



