鬱陶しい自分の思考をシャットダウン。
崩れかけていた秘書の仮面をつけ直すと扉を開け彼を入口まで見送る。
地上まで数階あるエレベーターに乗り込むと扉が閉まったと同時に引き寄せられ背中に彼の熱を感じる。
困るほど堕落した日常だ。
なるほど、彼は好意を寄せ気を許した人にはこうなのだと、もうどれだけ新たに学んだか。
いちいち不満を申し立てるのも面倒で、最近は成すがまま受け入れてその香りと熱に身を預けるほど。
彼の指先が手持ちぶたさなのか私の地毛である髪を遊び、指に絡めてはらりと外した、そんなタイミング。
「少し・・・・伸びたよね?」
「・・・・まぁ、籍を入れてから2か月くらいは経ってますから」
「・・・ふっふ~」
「・・・・・・気持ち悪・・・」
「ちょっ・・・酷くない!?」
「いきなりにやけて笑いだされた人間の正常な反応であって感情かと・・・」
不意にへラッと笑いだした彼に辛辣な反応で返して見せれば、分かりやすく不満顔見せ非難するように頬を指先でつついてくる。
止めろと言うようにその手を払うとまだ不満を言いたいらしい彼の言葉が続く。
「本当に甘え方が素直じゃなくて気まぐれだなぁ・・・」
「・・・・すみません。今のどこに甘えるべき要素が?」
「そんなの、言わなくてもどうせ千麻ちゃんの事だからわかってるんでしょ?分かってるからワザワザ傷つくような言葉で濁したくせに」
「・・・・さぁ、」
いや、本当は理解している。
彼が嬉しそうに笑った理由なんて。
単純明快すぎてわからない方がおかしいんだ。
それでも理解の範疇を超えるというようにそっぽを向けば、ニヤリと笑った彼が私の背後から首に回していた手を更に引き寄せ耳元に唇を寄せた。
「俺の理想目指して髪伸ばしてくれてる千麻ちゃんに愛情感じて笑ってたの・・・」
言いやがった・・・・。
こっちが誤魔化してうやむやにしたというのに。
酷くご機嫌な彼がにこやかに再び私の髪に触れてくる。
確かに今までの長さからは確実に長いと言えるヘアスタイル。
ここで言い訳として『美容室に行く時間がなかった』とか、『面倒だった』なんてことを言えば簡単に言葉の壁に包囲され言い負かされる。
悲しいかなお互いの日常はすでに理解していて、美容室に行く時間も豊富にあれば、面倒臭がる私でもないと理解されているのだ。



