「・・・・完全なセクハラですが?」
「だって・・・なんか欲情・・・・」
そう告げた唇が再度の重なり求めて近づいたのをスッと間に手を滑り込ませ阻止。
ああ、なんだかこの感じ久しぶり。
そう感じたのは私だけでなく彼も同じだったらしい。
指先が唇に触れた瞬間クスリと小さく零した笑い声と下がった眉尻。
そして困ったように揺れるグリーンアイ。
「・・・・出直し?」
「そうですね。・・・・もうすでにスケジュールから5分は遅延しておりますから」
あからさまに腕時計に視線を落として秘書らしい言葉で彼の欲情を制御。
さすがに今日ばかりは従順にその身を離した彼が『あ~あ』と言いながらもどかしそうに微笑んだ。
それを確認すると本当に秘書として意識。
もうこれ以上は遅れられない。
「副社長・・・お時間ですよ?」
「分かってますとも」
何事もなかったかのように真顔でそれを促せば、彼もまたスッと副社長の仮面を纏った微笑みを浮かべた。
驚いたのは自分の感情に。
以前は酷く好ましかった。
なのに今は不自然だと感じる。
彼が副社長に切り替わる瞬間。
今まで数少ない彼に対しての好印象だった筈が、いつの間に不自然で嘘臭く感じて小さく拒絶。
彼らしくない。
彼は・・・・そう・・・、
甘えた我儘で寂しがりやの男であるはず。
でもそれは・・・・そうか・・・あの家でしか見られない本当の彼。
本来私が知る事ない筈だった彼なんだ。
依存している。
感情が・・・。
心の奥からだんだん浸食してくる。
上辺だけの夫婦関係で終わらせるはずだったのに、どんどん貪欲になって小さな独占欲疼くほど。
その独占欲が・・・・あの一言を口にした。
『・・・・・行くの・・・・・やめますか?』
馬鹿らしい。
彼の仕事を遮ってどうするの?
私情を挟んで仕事に関与したらまともな結果は生み出さない。
結果・・・彼の為にはならないのだ。
やはり・・・割切らなくては。
会社では副社長と秘書。
夫婦は・・・・・夫婦ごっこは・・・・家で。
「千麻ちゃん?」
「・・・・・はい?」
「・・・・・行かないの?」
苦笑いの彼が顔を覗き込んで確認を入れて正気に戻った。
ああ、また・・・。
仕事に影響は出したくないのに・・・・。
あなたの行動や言動一つで徐々に自分の歯車がずれていくのよ・・・ダーリン・・・・。



