「千麻ちゃんは本当に狡い・・・」
「何のことでしょう?」
「そうやって何でもない事みたいにさらりと大胆な事して俺を翻弄して・・・・、いちいち反応しちゃう俺の身にもなってよ・・・」
「・・・・・・痛いのに目覚めました?」
「ふっ・・・そうじゃなくて・・・」
勿論わかった上での冗談。
彼もそれは分かっているからクスリと笑うとゆっくり私の体を解放した。
離れて捉えた表情は穏やかだ。
どうやら私の【保険】に対して満足したらしい彼は分かりやすくご機嫌だ。
ああ、本当・・・、
ここまでくればもう誤魔化しようもなく。
ねぇ、ダーリン?
あなたはもっと女の子に対してポーカーフェイスで対応する人であったのに。
感情ただ漏れでそれじゃあモテないわよ?
己惚れじゃなく・・・・、困るくらいに理解する。
私を好きで仕方ないって、そんな笑顔に乗せないで・・・。
その笑顔にどう返したら正解か・・・まだ私は分からないのに・・・。
それでも・・・少なくとも・・・。
独占欲が働くのは本当。
この5年一度だって抱かなかったそれをこうして自分で認めるほど感じるのは、、
私も彼に仕事以上の好意を抱いているという事になる。
「・・・・お仕事・・・お願いします」
「勿論・・・実績下げて父さんに千麻ちゃん取り上げられたくないしね」
ニッと微笑み自分のデスクに戻る姿を思わず見つめた。
久しぶりに今日は別々にあの部屋に帰ることになるのか。
そして・・・今夜は一人で晩酌かと、どこか物悲しい気持ちが疼いたのを誤魔化し自分もデスクに戻って仕事を再開させた。
彼が会社を出るまでの時間まであと10分ほど。
刻一刻とその時間が迫る度に表情重苦しく溜め息の回数が増えるのを見逃さない。
本当に憂鬱なのだと理解してもそこは私の及ばぬ範疇。
出来ることは限られている。
時間通りに彼を送り出す。
ただ・・・それだけ。
そして最終確認のように視線走らせた時刻はもう準備が必要だと腰を浮かせた。
それは気乗りしないだろうが彼もきちんと把握していて、ほぼ同時にパソコンを落とし立ち上がった姿が上着を羽織ってこちらを見つめる。
この期に及んで『行きたくない』の意思表示。



