「ああ、そうでした。私がつけたキスマークだったわダーリン」
うっかりしていたと微笑めば、眉根を寄せた彼が気持ちのない笑みを口元に浮かべる。
「響きほど可愛くない痛みが走ってるけど?ハニー」
「【痛いほど】念願叶って私の愛を感じて嬉しいでしょう?」
「嬉しい・・・けど、素直に喜べない・・・」
軽く涙目で押さえていたその手をどければはっきりくっきり残る自分の歯型。
いつかのお返しだ。
ざまぁみろ。
ふふん。と笑って腕を組み彼を見上げると、しぶしぶシャツとネクタイを戻していく姿。
その手がネクタイに触れたタイミングで自分の指先を伸ばすと理解したように彼の手が外される。
キュッと綺麗に首元で締め直し、バランスを確認したときに思わずクスリと笑ってしまう。
「何?」
「いえ・・・、絶妙な位置につけられたと満足して」
狙ってつけたんですけどね。
シャツやネクタイをきっちり戻せば自分のつけた痕は大幅隠れる。
僅かに距離あけば他者には気づかれない程度。
それでもこんな風に至近距離に寄ればその赤みに目が止まる。
「私だって・・・・それなりに独占欲は持ち合わせているのですよ?でも大人の常識もあって仕事という名が付くものには寛大になりましょうとも」
そう本音を零していけば緑を驚きに揺らして見下ろしてくる彼。
自分が求めたくせに相変わらず応えればそんな顔するんですね。
「でも・・・・これは保険です」
「・・ほ、保険?」
「ただの会食であればこんな距離にまで寄らない筈。彼女がこれを目にすることはないでしょうとも」
「・・・・」
「私はね・・・・お気に入りの物を勝手に他の人に使われるなんて絶対に嫌なの。名前を記入したものほど特に・・・」
「・・・・・名前?」
苦笑いで名前と称された噛み痕を指さす彼に微笑みで肯定。
そうしてパッとネクタイから手を離すと最後の釘差し。
「諸々・・・しっかり納得ご理解頂いた上で・・・・いってらっしゃいまーーーー」
言い切るより早くあの香りに閉じ込められた。
きつく強く。
ああ、ダーリン・・・・高いスーツにファンデーションが付いてしまうわよ?
そんな事を思っているくせに思わず口の端が僅かに上がった。



