もうこんな抱擁も慣れた。
甘えて巻き付いてくる腕や香り、頬を掠める彼の髪の毛。
そして私の肩に預けるように頭(こうべ)を垂れて、耳元に囁くように心の内を告げてくる。
耳をくすぐる彼の息と声音。
「・・・・キスしたいんですが。・・・・いいですか?」
碌な要求ではないと思っていたけれど、やっぱりその予想は外れない。
軽く呆れて息を吐くと、逆に彼の肩に寄りかかるように顔を上げてその非難を口にする。
「勤務中ですが?副社長?」
「知ってる・・・、だから勝手にして殴られる前に確認入れてみたんだけど。・・・・・ダメ?」
「・・・・・セクハラです」
「うん・・・セクハラです」
まさかの肯定を苦笑いで口にした彼が、許可を待たずに顔を寄せて。
非難すべきかと一瞬の迷いの後に無駄な抵抗だと諦め、逆に彼のネクタイをグイッと掴みながら体を対面させると食いつくように唇を重ねた。
触れ合った瞬間に彼の口元が笑ったのを感じる。
そして呼吸をする僅かな隙間に挟み込まれる響き。
「負ける・・・」
思わずその言葉に小さく口の端を上げ彼の唇を舌先でなぞり、吸い付くようにしっかり密着させると余韻残しながらゆっくりと離した。
小さくチュッと響く音が後を引く。
名残惜しいのか離れた顔の距離を再度寄せて額を合わせた彼が困ったように微笑んでくる。
「・・・勤務中ですよ?千麻ちゃん、」
「存じてますが?」
「こんなキス・・・しちゃう?」
「おかしな事を・・・要求されたのは副社長では?」
「もっと・・・ソフトでフレンドリーなのかと・・・」
「ご不満ですか?」
「・・・・ご不満に・・・なりそうだよ。・・・・・・キスだけじゃ足りなくなりそうじゃん・・・・」
「・・・・・・発情期、」
「夜の千麻ちゃん程じゃない」
「へぇ、そんなに千麻ちゃん激しいの?」
不意に介入してきた声音に2人して双眸見開き不動になる。
でも瞬時に反応して声の主探すように離れ振り返れば、すでに聞き馴染みあるその人はすぐに捉えた。
そして相変わらずの嫌味で策士で悪戯な微笑み浮かべ私と彼をにっこりと微笑んでそこに立つ。
我が会社のトップでお義父様。
「社長・・・ノック・・・お願いします。と、何度も・・・」
「ノックしたらこんな面白い事態が見れないじゃない」
にっこりと悪びれない嫌味の言葉に腹が立つ。
それでもそれ以上不満を告げられないのは明らかに自分たちの方が非がある現状のせいだ。



