「いない・・・・」
ぽつりと見て理解した事を言葉にもしてしまった。
そしてそれを更に実感させるように中に突き進んでも、彼が脅かす様に隠れているでもなく本当にその気配を部屋から消している。
空っぽのデスクに向かっても特に書き置きがあるでもなく、ただ、膨大であった仕事の山は綺麗に片して出かけたらしい。
私に対しての一言メモはなくとも、完璧にこなされた仕事の結果は私に分かりやすく仕訳されデスクに重なる。
そうなると無断外出に文句も言えず、小さく息を吐くと自分のデスクに戻っていく。
念の為に自分の携帯を手にしてみても特に変化のない待ち受け画面。
まぁ、特に急ぎの仕事があるわけでもないし。
僅かばかりの不満をその一言で収めていくと、自分の空腹の方に意識が移り。
鞄から財布を手にすると何か胃に収めるべく歩き出す。
丁度扉に手をかけた瞬間。
「・・っ・・・・」
「・・・おお、千麻ちゃん」
「・・・・・ノック・・・・お願いします。社長」
自分が押すより早く開いた扉で、空回りした体がその人に飛び込んでぶつかってしまった。
顔を上げればよく見知った彼と類似する姿。
だけども彼より鋭い印象が強いグリーンアイ。
黒豹。
そんなイメージのその人が飛び込んでしまった私を抱きとめにっこりと微笑み下ろしてくる。
「やだなぁ。他人行儀な・・・・、『パパ』って呼んでもいいんだよ?」
「セクハラですか?」
「じゃあ、お義父さん」
「・・・社長、何かご用でしょうか?」
いつまでもからかう姿勢を変えない姿に親子なのだと痛感した。
悪びれずにクスクスと笑うのはこの会社のトップである社長。
つまりは彼の実父であり、私の義父になるわけだ。
・・・・・1年は。
「いや、用っていう用はなかったんだけど。・・・可愛い息子の新婚ぶりを眺めに・・・」
「仕事してください」
「心配なんだよぉ?それなりに仲良くしてるか」
「それなりに仲良くしてますから大丈夫です」
そう言って溜め息交じりに腕を組むと、何やら意味ありげに含み笑いを私に向ける姿に疑問を返す。
眉根を寄せ『何か?』と視線で見つめれば、クスリと笑った姿がスッとその指を私の首筋に向けた。



