「・・・・取り戻したかったんです」
「・・・・馬鹿じゃないの?心底・・・呆れる」
私の言葉によろりとその背中を手すりに預け、指輪を持っていない方の手で髪をかき上げた彼が重く息を吐いて不動になる。
その姿を横から見つめ、痛いほどに彼の失望を感じながらも手を伸ばした。
「・・・・・返して・・・いただけますか?」
声を響かせ再び一歩彼に近づく。
そしてその手に乗せてほしいと手のひらを上に差し出すと、返されたのは彼の失望の響き。
「・・・・・・もう、いいよ」
「・・・・何が?」
「・・・・・・夫婦の証とか、千麻ちゃんを独占したいとか・・・どうでもいい」
言われた言葉に凍り付く。
それは・・・その言葉は・・・、
私との関係を拒絶する響きだから。
さすがに返す言葉に迷ってわずかに口を開いたまま不動になれば、追い打ちをかけるように向けられた言葉。
「いくら形で縛っても・・・・、関係が深まったと思っても、
・・・簡単に千麻ちゃんが裏切って離れる・・・・」
「・・っ・・・」
「俺が必死になって得たものを感情乱さずに壊していくんだ」
「・・ちがっ・・・そんなつもりないっ。・・・裏切る気なんてないです!」
「じゃあ、・・・あのキスは何?裏切る気がないなら何であいつとキスとかするわけ?あいつの言うとおりに『たかがキス』とか思ってるわけ?」
「『たかがキス』です!!」
「っ・・・」
「・・・・・・・その指輪の為なら」
彼が感情的になった言葉に感情的に肯定してみせればそのグリーンが驚愕で揺れた。
そしてその理由を語ればどういう意味の物なのか乾いた笑いを小さく響かせ指輪を見つめる。
「・・・・・馬鹿らしい」
「・・・・・はっ?」
指輪を見つめていた彼の口から零れた言葉。
その小さなリングが害をなすものの様に見つめて皮肉に笑う。
「こんな・・・指輪の為・・・ね」
「・・・・こんな?」
「随分な大義名分の理由ありがとう。それなりに夫婦の絆ってものをこれにかけて取り戻してくれたんだ?
そんな形ばかりの仕事の上での夫婦関係を保とうとしてくれてありがとう!
・・・・でも、そんな売女のような犠牲の上の絆なんて気色悪い」
スッと口元から消える弧。
そしてこれ以上ない嫌悪の視線をリングに向けるとギュッと握りしめ彼が勢い任せにそれを空に舞わす。
視界には捉える事叶わず落下したであろう指輪を追って手すりに身を乗り出しても捉えられるはずのないそれに血の気が引いた。



