夫婦ですが何か?







「・・・・千麻のそういうところが好きだよ。動じて逃げない、言い訳もしない。だから・・・俺も約束は果たさないと」



ニッと悪戯に私の唇から移った口紅を拭い取りながら、持っていた指輪をはっきりとその場で示すと無造作に投げて渡す。


誰に?


驚愕で入口で不動になっているグリーンアイの我が夫に。


ライトできらり光ったそれが弧を描いて投げ渡されるのを、驚きつつも受け取った彼。


してやられたと、自分の手ではなく彼の手に渡した恭司を睨みつけてもただ楽しげに微笑まれ更に悔しさが募った。




「なんて顔?千麻。俺は約束を果たしたのに」


「・・・・・・ええ、とっても紳士だわ恭司」


「きっと、千麻の涙ぐましい代償の元で取り戻したそれに彼も寛大に許してくれるんじゃない?・・・たかがキスだし」



嫌味な男。


決して負かされず、人が傷つく言葉をあえて選ぶ。


その毒のある言葉に私は免疫があって傷ついたりしない。


でも・・・・彼は?


普段なら不機嫌あらわに私を強引に連れ出してもおかしくない彼の不動の反応に逆に心が乱れて暴れる。


さすがにその表情にもう驚きは映しておらず、嫌味な言葉を告げた恭司を射抜くように見つめると、ゆっくり移ったグリーンアイが私にも同じような攻撃性を示してから背中を向けた。



「・・・・・・千麻」



強く跳ねた心臓がきりきりと痛む。


決して怒鳴るように呼ばれたわけでない名前の響きに一瞬怯んだ。


多分、ついて来い。の意思表示。


でも怒鳴るよりも強く感じる憤りや落胆、失意の念、すべてを痛感しながらスッとその身を動かすと、一人楽しげな男を一睨みしてからその部屋を抜けた。


ローカに出ればかすかに聞こえる会場の賑わい。


そのざわめきでさすがに無言で彼女らの前から姿を消せないと判断すると、未だ無言の背中にいつものように声をかけた。



「あの・・・、一応彼女たちに帰宅することを連絡しても?」


「・・・・・」



返されなかったのは声だけじゃなく、視線も。


まるで聞こえなかったように歩き続ける姿に胸の奥がざわめいて仕方がない。


それでも自己判断。


携帯を取り出すと一瞬迷った後にメールという形で彼女らに伝言を残す。


きっと今は彼女らは自分たちの夢に必死で嬉々としているはずだから。


そんな彼女らに・・・・今の私はまともに対応できるはずない。


彼の背中を追いながらメールを送信すると携帯をしまった。