一瞬、経験のない事態に呆けて不動になり、ちらりと隣に立つ彼女らに視線を走らせれば。
引いてる。
つまり、あまり性質のよろしくない分類のそれに好かれたのだと結論を下した。
そんな瞬間。
『昨日からもうすっかりファンで。もう一晩中忘れられなくて、』
何だろう、たかが言葉でここまで異様な嫌悪を感じたことはない。
一晩って・・・、なんか嫌だ。
かといって、彼女たちのブランドのお披露目の場。
ここでわざわざこうして集まってくれたファンを邪険にした。なんて事態はよろしくないし、名前に傷が残りかねない。
「ありがとう」
瞬時の判断でそう下すと、言葉ばかりは謝礼を響かせた。
それで引くなら別に問題はないだろう。と。
だけども何故かその場にとどまり、更に一歩私に踏み出すとおもむろに私の手を両手で掴んで興奮したような声を響かせる。
「嬉しい。俺の気持ちが通じるなんて」
「・・・・・・あの、落ち着いて。手を・・・」
離して。
そういうつもりが私の声は響かず彼の声が大きく響いた。
「逃げないでよ。僕のお人形さん」
あっ、・・・・目がイってる。
さすがに鳴り響く危険警報に瞬時にその手を振りほどくように抵抗すれば、しつこく掴んでいた男のせいで予想外のタイミングにその手が外れバランスを崩した。
男の異常さにさすがにその場の人たちがざわめいていたせいもあって警備を呼ぶ声も聞こえていた。
でも、その騒ぎを感じたのは体に浮遊感を得ている最中。
『千麻ちゃんっ』
彼女らの焦った声と咄嗟に手を伸ばす姿を捉えた直後、ふわりと嫌な浮遊感得た体がどさりと激しく床に叩きつけられ目が眩んだ。
高く眩しい会場の天井をぼやけた視界に映しこむ。
頭が痛い。
ヤバい・・・意識が・・・薄れそう。
男を振りきった際に予想外のタイミングに離れた体がバランスを保とうとして後退した。
決して高くないステージだけども受け身を取る間もなく落下して現状。
情けない。と、こんな時でも感じて必死に意識を保とうとするのに限界。
そんな耳に『この人です』とか、さっきの男の声で『違う』『悪くない』とか言う騒ぎが聞こえる。
ああ、警備の人が来たんだ。と安心した瞬間に鼻を掠めた匂いに反応した。
「千麻っーーー」
覗き込んだ姿が珍しく笑ってない。
真剣で少し焦った顔。
これは・・・・新鮮だわ。
「ーーーーっ・・・し・・て」
朦朧とする意識で絶対に言わなければと思っていた言葉を告げた。
でも、伝わっていたかしら?
自分では言い切った瞬間、成し遂げたように意識がプツリと途切れてしまう。
『返して』
そう言ったつもりだった。
私を最後に覗き込んだのは狡猾なチシャ猫。
ああ、過去に好んだ香りが鼻につく。



